ある日の午後だった。
仕事を手伝うと言って朝からシュンリンが来てくれ、一緒に昼食を取った後、彼女にお使いを頼んだ。
「それじゃあ行ってきますね!」
「ええ、お願いします。道中くれぐれも気を付けてくださいね」
「あはは、大丈夫ですよ。鈴魂森を通ればすぐですから」
「そうかもしれませんが……」
鈴魂森とは、キョンシーを故郷に還すための森。
そこを通ると移動時間がぐっと短縮できるものの道士がいないと入れない森のため、シュンリンに離れた街へ急ぎの書類を届けてもらうことにした。
彼女だって道士として多忙の身。
それなのに私のお使いも喜んで引き受けてくれる彼女の優しさに甘えっぱなしで申し訳なくなる。
僅かにうつむいた私の頬をシュンリンが指で摘まんだ。
「ロンレイさん……また睡眠時間削ってますよね?
目の下のクマ、前回会った時よりひどいです。
今日はいい天気だし、お昼寝日和なので少しは休んでくださいね」
「……キミには敵いませんね」
ありがとう、とお礼を言って彼女の背中を見えなくなるまで見送り、執務室へと戻る。
(シュンリンはああ言ってくれたけれど、彼女が帰ってくるまでに終わらせたい仕事がいくつかある。
それを片付けてから少し休息を取って……少しは顔色の良くなった姿を見せれば彼女も安心してくれるでしょう)
などと考えながら執務室の扉を開け、椅子に座ろうとした私は驚いた。
「みゅー……みゅぐ……みゅーーーーーみゅぐ……」
「ミーミさん!?」
私の仕事机の真ん中で、大の字になって眠っているミーミさんがいた。
「さっきシュンリンと一緒に出かけたのでは……?」
そう思ったものの、屋敷を出ていった時の彼女の頭にも肩にもミーミさんが乗っていなかったことに気付いた。
シュンリンとミーミさんは一心同体と言っても過言ではないほどに行動を共にする。
いつだって一緒で、なかなか会えない私からすればミーミさんのことを羨ましいと思ったことは一度や二度ではない。
そんなミーミさんが……今、私の机で昼寝をしているのはどういうわけなのか。
「ミーミさん? 寝ています……よね」
「みゅー……みゅみ」
私の問いかけにミーミさんは返事のような寝言のような言葉を返す。
目の周りが黒い毛で覆われているため、どこが目なのか非常に分かりにくいものの、よく見ればしっかり目をつぶっている。
今日は天気が良いからお昼寝日和だというシュンリンの言葉を思い出す。
お昼ごはんを食べてお腹がいっぱいになった後、どこかで横になりたいと思ったのかもしれない。
たまたま私の机に横になってみたら心地よい日差しに眠くなってしまったのではないか。そう推察する。
きっとミーミさんはそうやって日々彼女の傍らで過ごしているのだろう。
そう思うと微笑ましく、このまま寝かせておいてあげたい気持ちになった。
最近では少しずつミーミさんと触れ合う時間が増えていた。
それでも寝ている時に冷たい手で触れられたら、きっとミーミさんは驚いて目を覚ましてしまうだろう。
自然と目を覚ますまで寝かせてやることにしよう。
手頃な大きさの布を持ってきて、ミーミさんのおなかにそっとかけてやった。その時だった。
「みゅ~?」
「あ……すいません、起こしてしまいましたか?」
ミーミさんの目が開いた。
きょろきょろと周囲を見まわすミーミさんはおそらくシュンリンを探しているのだろう。
「シュンリンは今おつかいに行っていて――」
「みゅ!」
「え!? ミーミさん!?」
あろうことかミーミさんは私の胸に飛びつき……服の合わせに身体を滑り込ませた。
「みゅ……みゅううみゅう」
「そんなところ……! 気持ち悪いでしょう」
中に服を着ているとはいえ、私の冷たい肌は布越しに感じているはずだ。
それにも関わらずミーミさんは再び寝息を立て始めてしまった。
「……こ、このままでも大丈夫ですか?」
「みゅー」
「嫌になったらいつでも出ていいですからね」
「……ゅ」
返事のような寝言のような言葉を返し、ミーミさんはすやすやと眠りについてしまった。
(……仕事しますか)
胸のあたりに感じたことのないぬくもりを抱えながら進める仕事はなんだかくすぐったくて。
睡眠時間からでは得られないような幸福感を知った。
しばらくして帰ってきたシュンリンは私とミーミさんの姿を見て、声にならない声をあげた後自分も仲間に入りたいと言って私の膝の上に座ってきた話は別の機会に――