パタン。
部屋のドアが開く音がした。
瞼が重い。重すぎて目を開けることが出来ない。
それでもなんとかうっすらと目を開くと、視界の片隅に豪さんの姿を捉えた。
お風呂から上がったのだろう。お揃いで買ったモコモコの部屋着を着た豪さんは思わず抱きつきたくなる可愛さだった。
「ああ、眠ってる」
そんな豪さんがぽつりと呟く。
どうやら私が眠っていると思ったようだ。近づいてきた彼はそっとブランケットを私の身体にかけてくれた。
ここのところずっと忙しかった。毎日日付が変わるまで残業し、朝は始発に飛び乗った。
そんな生活もようやく終わり、久しぶりに豪さんの手料理に舌鼓を打ち、豪さんが特別にと買っておいてくれた麦焼酎を飲んだ私はソファに移動するなり眠ってしまったようだ。
「可愛い寝顔」
離れるのかと思いきや豪さんはその場にしゃがみこみ、私の顔をじっと見つめているようだ。
そうされると起きているとは言いづらく、ぎゅっと目を閉じて、わざとらしくならないようにすーすーと呼吸を繰り返す。
しばらくすれば離れていく、もしくは起こしてくれるだろうと思っていたけれど、豪さんはそのどちらも選ばない。
私のわざとらしい寝息だけが響く。
(どうしよう、どうしたら自然に起きたって思ってもらえるんだろう)
ぱちっと勢いよく目を開けてしまえばいいのか。それともうっすらと目を開けた後まばたきを繰り返せばいいのか。
悩んでいると、唇に何かが触れた。それは豪さんの指だった。
ゆっくりと唇をなぞられると、身体が強張る。ばくばくと胸の鼓動が騒がしくなり、緊張がピークに達した瞬間、豪さんがそっとささやいた。
「ねえ、キスしてもいい?」
「――!?」
思わず目を開くと、にっこりと笑みを浮かべた豪さんと目が合った。
「豪さん、気づいていたんですか?」
「ええ、可愛い狸さんでした」
「ぐっ……気づいてたんなら目を開ければよかったです。私が寝てると思ってるみたいだったからいつ目を開けていいか分からなくて」
「ふふ、そうだと思いました」
豪さんが上がったばかりだから、まだお風呂のお湯はぬるくなっていないだろう。
私もお風呂に入ってさっぱりしよう。そう思って起き上がろうとすると、なぜだか豪さんに押し戻された。
「豪さん?」
「さっきの質問にまだ答えてもらってません」
「え? さっきって……」
――キスしてもいい?
そう囁かれた声が蘇った瞬間、ぶわりと顔が熱くなる。
「あれって私を驚かせるためだったんじゃ……」
「まさか。玲さんが可愛くてキスしたくなったんです」
「~~っ」
「ねえ、玲さん。キスしてもいい?」
私の髪を一房掬い、そこにキスを落とす。
豪さんはずるい。私が駄目なんて言うわけないって分かってるのに。
「……っ、してください」
そう言って、きゅっと唇を結ぶと、豪さんが嬉しそうに微笑む。
「可愛い可愛い俺の玲さん。大好きです」
ああ、もう降参だ。
私は心の中で白旗をあげ、豪さんに注がれる愛に溺れていくのだった。