先輩は妖狐の妖魔だ。
普段はないけれど、理性の制御が疎かになっている時やすごく気を許した相手の前だけでは、もふもふの耳と尻尾が現れる。
「わ、わあ……!」
「随分楽しそうだね、小花」
「はい! すっごく楽しいです!」
ここは先輩のお部屋。
お部屋デートの回数は両手では足りない数になり、すっかり私は先輩の部屋に慣れてしまった。
けれど、まだ慣れないものがある。
それは先輩のもふもふの耳と尻尾だ。
もふっとした尻尾を撫でると、あまりの気持ち良さに歓喜の声をあげてしまう。
そんな私に、先輩は呆れることなく付き合ってくれるのだけれど……
(これで、いいんだっけ?)
ふと我に返る。
先輩が、私の前だけで無防備な恰好を見せてくれる。
そのことはとても嬉しいし、こうしてもふもふに触れられるのだって幸せなことだけど。
(……先輩のこと、篭絡出来てないかも!?)
篭絡というと聞こえが悪いかしれない。
先輩は私のことを大切にしたいと言って、唇のキスはおろか、きつく抱きしめることだってほとんどない。
手と手が触れるだけで私が顔を真っ赤にするせいだろうか。
先輩は私の歩幅に合わせるみたいにゆったりと寄り添ってくれている。
だけど、このままではいけない。先輩のもふもふとした尻尾を撫でまわしながら、そう決意した。
(だって、私だって……キスとか、色々なことを先輩としたいし! って変なこと考えたらまた顔が熱くなってきた!!)
わー!と邪な気持ちを追い出そうと頭をぶんぶんと振ると、様子のおかしい私に先輩が気づいた。
「小花? どうかした?」
後ろを振り向いた先輩とぱちりと目が合う。
真っ赤な顔を先輩に見られるのが恥ずかしくて、次の瞬間、私は勢いのままに行動していた。
「せ、先輩っ!」
私は先輩の頭を抱きしめるように両腕で包み込むと、彼のピンとしたもふもふの耳に唇を寄せた。
以前、先輩が私にしたように耳を甘噛みする。
我ながら大胆なことをした。これで少しは先輩に気持ちが伝わるかも。
今にも破裂してしまいそうなほど心臓の鼓動が高鳴る。
が、先輩は私の腕に収まったまま微動だにしない。
「尊人先輩……?」
もしかして私が変な事をしたから急に具合が悪くなったんだろうか。
さーっと血の気が失せる。慌てて、彼の顔を覗き込もうと体を離そうとした時だった。
「駄目、離れないで」
「……っ!」
ぴこぴこと耳が震える。
先輩は私の腰を強く抱いて、一ミリだって離れようとしない。
「久々李……あんまり俺の理性を試さないで」
「え、と」
先輩がちらりとこちらを見上げる。
気のせいだろうか。先輩の目尻が赤い。
いや、目尻というか顔が真っ赤になっている。
(もしかしたら先輩は私に合わせてくれてるんじゃなくて……私たちは同じ歩幅で歩いてるのかも)
こんな先輩を知っているのは私だけ。
私以外に誰にも見せたくなくて、二人きりの部屋だけど、私は先輩の顔を隠すようにぎゅっと強く抱きしめた。