あなたが芽吹かせたもの(夏メイ)

お正月の飾りが取り払われ、しばらく経った頃。
新しい飾り付けがされていた。

「これは……」
「七篠? どうかしたの」

思わず足を止めると、夏井さんが振り返った。
お正月の飾り付けは赤や緑といった色合いだったけれど、今回の飾りはピンクや金色といったキラキラとした色味が強くて吸い寄せられてしまいそうだ。

「夏井さん、これは一体?」
「ああ、来月バレンタインだからね」
「バレンタイン……チョコを贈る行事でしたよね?」
「そう。毎年、その時期になると春野さんのデスクが凄いことになるんだよね」

なんでも署の女性たちから春野さんに山のようにチョコレートが届くらしい。
春野さんは忙しいので、それを精査するのも夏井さんと秋元さんの役割になっているそうだ。
特対の方たちは仲が良くて、その話を聞いているだけで表情が綻んでしまう。

「春野さんは沢山の方から感謝されているんですね。
でも夏井さんと秋元さんも感謝されていると思うんですけど」
「感謝……は別に。ってちょっと待って」

夏井さんは何か考え込むように沈黙した後、私の方を向いた。

「七篠。バレンタインってどういう日か知ってる?」
「はい、もちろん。日頃の感謝を伝えるためにチョコレートを贈る行事ですよね」
「ああ……なるほど。そういう理解か」
「?」

夏井さんはがっかりしたようなほっとしたような曖昧な表情を浮かべる。
何か間違ったことを言っただろうか。
バレンタインについて他に情報はないか、とピンク色の装飾に視線を走らせる。
すると、影になっていて見づらかったが大切なワードを発見した。

『大好きなあの人へ、想いよ届け』

なるほど、これはつまり――

「夏井さん、バレンタインデー楽しみにしててくださいね」
「え?」
「すみません、立ち止まってしまって。映画の時間も近づいてますし、急ぎましょう」
「うん。いや、映画に遅れるのはまずいんだけど、七篠今の言葉は……?」

慌てて顔を赤らめる夏井さんに、愛おしさがこみあげてくる。
夏井さんに届けたい気持ちは感謝だけじゃない。
夏井さんに気づかれないように、こっそりと笑みを浮かべた。

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