小さい頃からずっと一緒だったから。
だから大切で特別だった。
だけど、今は――
放課後。
教室に残って友達数人とおしゃべりに花を咲かせていると、いつの間にかトモセくんの部活が終わる時間が近づいていた。
「あ、私そろそろ行かないと」
「ヒヨリが迎えに行くの? 彼氏くんならお迎えに来てくれそうだけど」
「うん、来てくれると思うけど……トモセくん、最近忙しいから私が迎えにいってあげたいかな」
「お、愛だね~!」
「だから先に行くね、また明日!」
以前は幼馴染のトモセくんのことを彼氏だと言われるのは苦手だった。
だって私たちの関係はずっと変わらず幼馴染だったから。
(だけど今は……彼氏彼女扱いはちょっと照れくさいけど嬉しいかもしれない)
なんて考えながら、トモセくんがいる演劇部の稽古場を目指す。
一階に降りて、しばらく廊下を歩く。
あの角を曲がれば、稽古場だ。
少し離れた場所で待っていよう、と思った時だった。
トモセくんが女の子と一緒にいるのが見えた。
(……あ)
トモセくんと女の子が何かを話している。
トモセくんが、ふっと表情を緩めた瞬間、もやもやとしたものが胸に広がる。
トモセくんが私以外の女の子と話す場面なんて今まで何度も見てきた。
むしろ話さない方が心配だったから、私の友達とおしゃべりするよう輪に入ってもらったことだって何度もあったのに。
(……どうしてだろう)
稽古場の近くで待つことをやめた私は踵を返し、玄関に戻ることにした。
それからしばらく経ち。
「ヒヨリ!」
「トモセくん……」
「悪い、待たせた。ヒヨリのクラスに迎えにいったら、ヒヨリはとっくに出たって言われて少し焦った。ここにいてくれてよかった」
「…………」
息を弾ませるトモセくん。
私の教室からここまで全速力で来てくれたのだろう。
一言連絡すればトモセくんにそんな真似をさせなかったのに、私はどうしても連絡する気にならなかった。
「ヒヨリ? もしかして具合でも――」
「具合は悪くない。ちょっとだけ虫の居所が悪いだけ」
「虫の居所……」
「そう、それだけ。別にトモセくんが私以外の女の子と仲良くしてたって……」
「他の女の子?」
「あ」
ぽろ、と余計な言葉が零れてしまった。
今更口を押えても遅い。
トモセくんは私の隣に座ると、私の顔を覗き込んだ。
「ヒヨリ」
「……トモセくん、なんで嬉しそうな顔してるの」
トモセくんは嬉しさを隠しきれないといった表情をしていた。
私は不機嫌なのに。
トモセくんが悪いことしたわけじゃないのに、トモセくんにもやもやしてるのに。
「ヒヨリがヤキモチを妬いてくれるようになったんだなと思ったら隠しきれなかった」
「……やきもち」
「今まで俺がヒヨリ以外の女子と話しても、ヒヨリはニコニコしてただろう」
「それはそうだよ。トモセくんが他の人と話すの嬉しいもん」
「俺はそれが少し…いや、かなり不満だった。
ヒヨリがまるで俺を意識していないと言われてるみたいで」
「……!」
「ヒヨリが嫌ならヒヨリ以外の女子と話さないよう最大限努力する」
「それは駄目だよ!」
トモセくんなら本当にやりかねないと思って、慌てて否定する。
「だけど……私の知らない子と、私が見える場所で話すのは嫌……かも」
「ヒヨリがいない場所の方が心配じゃないのか?」
「うん。トモセくんを信じてるから」
我ながらなんて面倒くさい彼女なんだろうか。
トモセくんは小さく笑うと、膝の上で握っていた私の手に自分の手を重ねた。
「私、面倒くさくない?」
「全然」
「だって今だって他の女の子と話してるの見たくないって言って……」
「ヒヨリは朱里達がいるからいつだって我慢することの方が多いだろう。
食べたいケーキだって譲るし、一番風呂が好きなくせに風呂の順番だって後回しだ。そんなお前が俺にだけ我侭を言ってくれるんだから面倒だなんて思うわけないだろ」
「……トモセくん」
トモセくんがウソをついていないことはすぐにわかる。
だって小さい頃からずっと一緒にいた幼馴染だから。
異世界にいるときにトモセくんに言われたことを思い出す。
私はトモセくんのことが見えていないって。
あれは、きっと……あの頃からずっとずっとトモセくんに甘えてきたのだろう。
トモセくんにだけは我侭が言えたのだ、と今なら分かる。
「トモセくん、ありがとう。トモセくんが幼馴染で……彼氏で良かった」
まだ触れ合うのは恥ずかしいけど。
自分から甘えるようにトモセくんにくっつく。
制服越しにトモセくんの体温が伝わってきて、胸の鼓動が落ち着かない。
「……ヒヨリ、好きだ。お前だけがずっと好きだよ」
「うん、私も――」
だから、どうか。
これから先もずっと私を好きでいて。
そんな我侭を言ったら、トモセくんはどんな風に笑うだろうか。