夏のせい(春メイ)

(あ……)

仕事終わり、コンビニで新商品のアイスを見つけた。
九月に入ったけれど、まだうだるように暑い日が続いている。
とはいえ、暦の上では秋なのだと主張するようにコンビニの新商品はすっかり秋めいていた。
この新商品のその一つ。カボチャプリン味と書かれたアイスに心惹かれた私は悩んだ末にそれを手に取った。

買い物を終え、早速買ったばかりのアイスを袋から取り出し、アイスにかじりつく。
濃厚なカボチャの後にカラメルソースの味がやってくる。
なんと味わい深いんだろうか。これは後で彼に知らせるべきだろう。
心地よい夜風が頬を撫でる。気分の良い夜だ、と思った時だった。

「七條君?」

後ろから声をかけられ、振り返る。
そこにいたのは春野さんだった。

「春野さん、こんばんは。お仕事中ですか?」

ちらりと彼の背後に視線をやる。
刑事というものは二人一組で行動するものだ。
姿は見えないが、もしかしたら誰かいるかもしれないと思い、訊ねると彼は小さく首を振った。

「いや、仕事帰りだ。君もか?」
「はい、そうです。今日のご褒美にアイスを買ったところです」
「なるほど」

春野さんは頷くと、私の隣に立つ。

「時間も遅い。送っていこう」
「いえ、ですが……」

春野さんも仕事帰り。ということは疲れているだろう。
見知った道だし、明るい場所を通って帰れば危険も少ない。
そんな道をわざわざ仕事帰りの春野さんに送ってもらうのは申し訳ない。

「俺がそうしたいだけだ。君が迷惑だというのなら諦めるが……」
「いえ、迷惑だなんて。春野さんのご迷惑になるんじゃないかと考えただけです」
「そうか。だったら是非送らせてくれ。君が無事に帰宅したことを確認できる方が安心する」

そう言って春野さんは微笑んだ。
普段きりっとした表情を見ることが多い彼が、私の前で時折表情を緩めてくれる。
それが嬉しくて、私も気づけば彼と同じように頬を緩めていた。

(でも、やっぱりただ送ってもらうだけじゃ申し訳ない。そうだ)

そこで自分の手にあるアイスの存在を思い出した。

「春野さん、もしよければ」
「ん?」
「新商品のアイスです。甘いものは疲れにも効果があるでしょうし」

それに春野さんは甘いものが好きだ。
少しでも彼が喜んでくれたらいいと思って、彼に向ってアイスを差し出した。
すると、春野さんはためらった様子でアイスを見つめる。
そこで気づいた。自分の食べかけを相手に勧めるのは失礼だということを。

「すみません、私の食べかけですが」
「……いや、君が良いのなら遠慮なくいただこう」

引っ込めようとした瞬間、私の手首を掴んだ春野さんはそのままアイスにかじりついた。

「……甘いな」
「秋の新商品です」
「そうか、覚えておこう」

春野さんは私の手を離すと、一歩下がった。
もう手は触れていないのに、掴まれていた部分がひどく熱く感じる。

「もういらないんですか?」
「ああ、十分だ。後で自分で買うから心配しないでくれ」
「さっきこれを食べた時、美味しかったので春野さんに教えたいなと思ったので……教えられて良かったです」
「……そうか」

少し溶けてきたアイスをひと齧り。
なぜだろう。同じものを食べているのに、さっきより甘く感じるのは。

(もしかして溶けてきたから?)

街灯の明かりに照らされた春野さんの横顔が少し赤くなっていることに気づいた。
それも暑さのせいだろうか。
それとも――

「まだ、暑いですね」
「そうだな。もう少し、夏は続きそうだな」

頬の火照りも、手首が熱いのもきっと夏のせいだ。
そう言い聞かせながら、私たちは夜の道を歩くのだった。

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