どんな顔をするのか、知りたいなんて(アンセレ)

夕方から降り出した雨は、時間を追うごとに強くなっていった。
窓を激しく叩く雨粒に、思わずため息が漏れる。

「アドルフ、大丈夫かしら」

自警団の仕事のため、今日の帰宅は夜遅くなると言っていたけれど。
こんな激しい雨の中なら、帰宅はもっと遅くなるかもしれない。

「なあに、アイツのことなんて心配する必要はないよ。姫君。
雨風くらいでどうにかなるような男ではないだろう」
「それはそうなんだけど……」

きっとアドルフのことだから、傘も差さないだろう。
濡れ鼠になった義兄を思い浮かべてしまい、心配が増す。

「アイツも立派な男だろう。こんな雨の中なら自警団に泊まるとか判断くらい出来るはずだ。
いや、待て。姫君が私と二人きりでいることに妬いて、慌てて帰ってくるだろうか」
「ふふ、妬くだなんて」

アンクゥの言葉に思わず笑ってしまう。
その時だった。真っ暗な外が急にピカッと光った。

(あ……)
「姫君――ッ!」

次の瞬間、アンクゥに腕を強く引き寄せられた。
驚きのあまり瞬きさえ忘れて彼を見上げると、彼は私の耳を強く塞いだ。
そのすぐ後、アンクゥの手越しに微かに雷鳴が聞こえた。

「……あ、あのアンクゥ?」
「すまない、突然引き寄せて」

窓の外が光っていないことを確認した後、アンクゥはゆっくりと私の耳から手を離した。

「どうして……?」
「ん?」
「どうして雷が苦手だと分かったの?」

アンクゥに話したことはなかったはずだ。
不思議に思って彼に訊ねると、バツの悪そうな顔になる。
けれど、それも一瞬ですぐにいつものように柔らかく微笑んだ。

「ふふ、私は死の番人だよ? 姫君が雷に怯えていることに気づくなんて造作もないことだよ」
「…………それは死の番人となんら関係ないのでは?」

アンクゥはそれには答えず、笑みを深くするばかり。

(きっと答える気がないのね)

だったら追求しても仕方ない。
諦めた私は自分がどこにいるかを思い出す。
アンクゥの腕の中だ。

「あ、あの……アンクゥ? もう大丈夫だと思うから……」

彼から離れようとした瞬間、再び外が明るくなる。

「きゃっ……!」

雷鳴から逃げるように咄嗟にアンクゥにしがみつくと、アンクゥがもう一度私の耳を塞いでくれていた。

「これでもまだ大丈夫だと思うのかい?」
「……いいえ。あの、アンクゥ?」
「ん?」
「もしも……アンクゥが嫌じゃなければもう少しだけ」
「ああ……もう少しだけ、なんて言わなくていい。雷がどこか遠くへ行ってしまうまで私が姫君を守るよ」

アンクゥは私の視界を片手で塞ぐ。

「外が光ると不安になるだろう? 君は目を閉じて。私が耳を塞ぐから」

視界が塞がれているからだろうか。
アンクゥの声がいつもより優しく響く。
アンクゥの手が私の目から離れても、言われた通り目を閉じ続ける。
すると、彼の手が私を包み込むように背中に回った。
温かなぬくもり。耳を彼の胸に押し付ければ、トクントクンと鼓動が聞こえてくる。

(死の番人でも私たちと同じように心臓の音がするのね)

その音に耳を傾けると、雷への恐怖も何もかもが消えていくようだった。

まだ一緒に暮らしていた時だった。
激しい雨粒が窓を叩くと、セレスは決まって不安そうな顔をしていた。
そんな日は決まって寝付けないセレスを何度寝かしつけたか分からない。
雷が落ちる度、きゅっと目を閉じる姿は俺からしたら微笑ましかったが、本人にとっては恐怖以外何者でもなかったのだろう。
それでもなかなか恐怖を吐露しなかった。
だからその手を強く握ってやったんだ。

(大人になっても苦手なものは苦手なんだな)

大人しく腕の中にいるセレスを見つめ、思わず頬が緩む。
昔だったら、雨なんて早く止めばいいのにとぼやいていた。
けれど今は――

(もう少しだけ、この雨が続けばいいなんて思ってると知ったら、お前はどんな顔をするんだろうな)

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