「壮馬さん、腕痛くないですか?」
「貴方の頭は心地よい重さだな。もう少し力を抜いてくれても構わない」
隣を向くと壮馬さんが柔らかい笑みを浮かべる。
思ったよりも顔が近い場所にあって思わず逃げ出したくなるが、それを阻むみたいに私の首の下にある壮馬さんの腕が私を更に引き寄せる。
互いの息がかかりそうな距離に「ひぇ……」と声を上げてしまうと、壮馬さんは小さく笑った。
私は今、壮馬さんの部屋のベッドで、壮馬さんに腕枕をされている。
どうしてこんな事になったかというと話は少し遡る。
休日の昼下がり。
壮馬さんの部屋に来ていた私はハーブティーとパウンドケーキを食べながら、壮馬さんとおしゃべりをしていた。
壮馬さんと過ごす時間はとても楽しく、穏やかな時間に幸福を感じていた。
壮馬さんがハーブティーに口をつけた僅かな瞬間、急に眠気が襲ってきた。
「ふぁ……」
かみ殺しきれなかった欠伸が出てしまった。
「す、すいません!欠伸するなんて……!」
「いや、構わない。油断した貴方の顔は愛らしいからな」
「~っ!」
「それより最近は忙しかったようだが、きちんと眠れていたのか?」
「そうですね……ちょっと睡眠時間は削ってましたね」
大きな山が動けば、業務時間内に仕事が終わる事はほぼない。
事件は待ってくれないのだ。眠る時間を惜しんで仕事に取組む事は多くなる。
今日も久しぶりの休日。壮馬さんに言ったら心配するだろうと思ったから言わなかったのだが、どうやらバレバレだったようだ。
「それだったら少し休む事にしよう」
「え?」
壮馬さんは名案を閃いたというような表情を浮かべ、私をベッドへと連れていく。
ベッドの上に私と一緒に寝転がると、壮馬さんは枕代わりに私の首の下に腕を差し込んだ――というわけだ。
「壮馬さん、あの……」
「眠れないか?」
「……ドキドキしすぎて眠れないです」
だって目を閉じても壮馬さんの気配がすぐ近くに感じる。
枕にしている腕からも体温が伝わってくるし、耳をすませば壮馬さんの息遣いだって聞こえるのだ。ふかふかのベッドに寝転んでいるのに、緊張して体が強張るばかりだ。
「そうか、だったら子守歌でも歌ってみるか」
「え? 壮馬さんがですか?」
驚いて顔をあげると、パチリと目が合う。
やっぱり近い――そう思った瞬間、額に柔らかいものが触れた。
それは壮馬さんの唇だった。
「貴方にだけ特別に歌うのも悪くない」
耳元で囁かれる少し低めの声に、あっという間に体が熱くなる。
「そ、壮馬さん……わざとですか?」
「はは、バレてしまったか。貴方の反応が可愛らしくてな」
「もう……」
恥ずかしさを誤魔化すように壮馬さんの肩に額を押し当てる。
すると、壮馬さんにそっと抱きしめられた。
壮馬さんの体温に包まれていると、強張っていた体から力が抜けていく。
「安心していい。今は何もしないからゆっくり休んでくれ」
そっと目元を掌で覆われると、睡魔がじわじわと忍び寄ってくる。
ドキドキと落ち着かない鼓動はいつの間にか、穏やかなものへと変わっていく。
壮馬さんの優しさに包まれて、次第にうとうとし始める。
「壮馬さ……」
眠りに落ちる直前、彼の名前を呟く。
少しだけ強く抱きしめられた。
「おやすみ、玲」
壮馬さんの優しい声と一緒に眠りへと落ちていった。
その後、夕食の時間になっても現れない私と壮馬さんの様子を見に来た宮瀬さんに、ベッドで二人で熟睡しているところを発見されるのだった。