「兄さん、こういう映画好きだったっけ?」
「うーん、どうだろ」
夕食後、ソファに二人寄り添うようにして座って、借りてきた映画を再生し始めた。
何の映画かっていうと、友人からお勧めされた去年流行ったホラー映画だ。
去年は浪人生だったこともあり、娯楽はほとんど絶っていたため、タイトルさえ聞いた事のない映画だったが、友人の『彼女と見に行ったんだけど、見てる間怖がっていつもよりぐっと距離が縮まったんだ』という言葉につられて、借りてきてしまった。
「七緒はこういう映画、苦手だっけ?」
「うーん、あんまり見た事ないから分かんないかも」
「俺もそうかも」
古びた民家に男女二組が肝試しにいって、怪異現象に遭うっていうありきたりな話。なんだろう、序盤からチョイスを間違ったかもしれないという事は分かる。
ちらりと七緒の横顔を盗み見ると真剣な顔をして、テレビ画面を見ていた。
「もしもこういうところに行ったら私も何か見えるのかな」
「危ないからやめなさい」
「うん。兄さんが心配するようなところには行かないよ」
「うん。そうしてくれると安心だな」
映画を見ながら、そういえば昔こんな事があったよねとなぜか思い出話に花が咲き、あっという間に二時間経っていた。
「ふー、やっぱりあれだな。怖くなかったな」
「怖いのが見たかったの?」
レコーダーからDVDを取り出しながら呟くと、七緒が小首をかしげる。
確かにもっと恐ろしいものを見たり、経験してきている俺が作り物を見て怖がるわけはなかった。
ちょっとだけ期待したのは七緒との距離が縮む事。
こんなものに頼らないと縮められないのかと言われたら苦笑いを浮かべてしまいそうだ。
ちょっとだけ肩を落としながらDVDを仕舞っていると、ちょいちょいっと俺の服の裾を七緒が引っ張った。
「ねえ、兄さん」
「ん? どうかした?」
「……その、今日一緒に寝てもいい?」
「えっ」
七緒からの思ってもみない誘いに間抜けな声が出る。
「ごめん。子どもっぽいよね」
「いや、全然怖がってるようには見えなかったけど?」
「うん、映画は別に怖くなかったよ。
だけど、兄さんと昔の話いっぱいしてたら、なんだか離れがたくなっちゃった」
照れ臭そうに笑う七緒に、胸がときめいてしまう。
この誘いは、そういう誘いではない。
ただの添い寝だ。
でも、ただの添い寝だって好きな子が隣に眠るんだから正直落ち着かない。
「……うん、いいよ。俺も離れがたいって思ってたから」
「ありがとう。……五月」
まだ呼び慣れない俺の名前を口にする七緒。
服の裾を掴んでいた七緒の手に指を絡め、きゅっと握ると、七緒の頬に赤みが刺す。
「今夜はずっと一緒にいるよ、七緒」
映画を教えてくれた友人には後日美味しいものをご馳走しなければと思いながら、目の前の愛おしい人をそっと抱きしめた。