私の恋人の茅ヶ裂さんはいつだって優しくて暖かくて包容力があって。
彼と比べると私は子供だなぁって恥ずかしくなるけれど。
そんな彼の弱さや、他の人には見せない表情が見れた時はたまらなく嬉しくて。
私にだけ見せる顔がもっと沢山増えればいいな、なんて思っていた
んだけれど――
「ち、茅ヶ裂さんっ?」
「ふふ、顔が真っ赤ですね」
私を見下ろすマモルさんはニコリと微笑むと、私の手を取って指先に唇を寄せた。
冷え性なのか、指先が冷たいことをささやかな悩みとしてカウントしていたのだけれど、そんなものが引き跳ぶくらい指先が熱くなる。
私たちのデート場所はもっぱら茅ヶ裂さんのおうちだ。今日も彼の部屋に来て、おしゃべりをしたり、彼が大切にしているサボテンに小さな花が咲いたことを喜んだり。
そんないつも通りのささやかな幸せを噛みしめるような時間を過ごしていた。
けれど、そんなひとときはあるものによって吹き飛んだ。
そう、それは……お酒だ。
私が未成年という部分も大きいだろうけど、茅ヶ裂さんがお酒を飲むのを見たことがなかった。
だから冷蔵庫を開けた時、見慣れないお酒のボトルがあって驚いた。
「茅ヶ裂さん、お酒飲むんですか?」
「ああ、それは職場で頂いたんです。ほとんど飲んだことがないので持て余してるんです。もしもお料理に使えるなら使ってもらえると助かります」
「なるほど……」
見るからに高そうなお酒なのに、料理に使っていいんだろうか。
そもそもウィスキーって何の料理に使えるんだろう。後で調べてみようと考えながらも、ふと閃いてしまった。
「茅ヶ裂さん、ウィスキーって薄めて飲むお酒じゃないですか」
「そうなんですか?」
「はい。うすーくして飲んでみたらどうですか?」
茅ヶ裂さんは味覚が鈍い。だから食や嗜好品にも興味がわかないことは分かっている。
でも、試さないで諦めるのって勿体ないって思ってしまうから。
ついでに……ちょっと酔っぱらった茅ヶ裂さんってどうなるんだろうという好奇心がなかったとはいわない。
べたべたに甘えてくれたりしないかなーなんて期待を僅かに滲ませると、茅ヶ裂さんは「じゃあ、少しだけ飲んでみてみます」と頷いたのだ。
ウィスキーを水で割ったものを一口、二口と表情を変えることなく飲み続けた。
「美味しいですか?」
「うーん……喉が熱いような気がします」
「喉が!? お酒ってそうなんだ」
いつ頃酔うのかなってソワソワしながら茅ヶ裂さんを見ていると、グラスが半分くらいになった頃。不意に彼の手が伸びてきた。
「あっ」
視界が反転すると同時に茅ヶ裂さんが私に覆いかぶさった。
額に押し付けられた唇がいつもより熱いのは気のせいだろうか。
そうして彼は私のあちこちにキスを落とし、私を翻弄していく。
いつもの優しい表情ではない。なんと表現するのが適切なのか分からないけど、茅ヶ裂さんが私を見つめる瞳は熱を孕んでいるように思えた。
「瀬名さんがお酒を飲んだみたいになってますよ」
「私は飲んでな――んッ」
待ちわびていたものが唇に触れる。いつもだったら控えめに差し込まれる舌が、私の口内を弄った。
舌が絡み合うと慣れない味を拾ってしまい、これがお酒なんだ……と遅れて理解する。
「そんな可愛い顔、僕以外には見せないで」
「そもそも茅ヶ裂さん以外にこんな顔出来ないです……っ」
茹蛸のように真っ赤になっているであろうことは顔の熱さで理解しているけど、一体どんな顔をしているのかまでは分からない。
多分、茅ヶ裂さんが大好きって顔だと思う。
「ああ、こういう気持ちなんですね」
「?」
「可愛すぎて食べちゃいたい、というのは」
食欲にまつわることはよくわからなくて、と笑う茅ヶ裂さん。
喜んでるところ大変申し訳ないけど、多分絶対違う気がする。
はくはくと開閉することしか出来ない口に、またキスが落ちる。
「大好きです、瀬名さん」
優しく笑う茅ヶ裂さんは、男の人の顔をしていた。