陀宰くんと彼氏彼女になって、しばらく経つ。
キスは……片手では足りないけど、両手だと余るくらいの回数しかしていない。
教室に二人きり。
委員会の仕事も終わったし、後は帰るだけなんだけど夕焼けに染まる教室が綺麗でなんだか離れがたくて。
窓際で二人並んでぼんやりしていた。
グラウンドの方を眺める陀宰くんはなんだか大人びて見えて、ついつい目が逸らせずにいると陀宰くんが私の方を向いた。
「瀬名、どうかしたのか」
「ううん、なんでもない」
大人びて見えた陀宰くんがかっこよくて、キスしたくなってしまったとは恥ずかしくて言えないので、首を小さく横に振った。
まだ両手には届かないキスの回数。
でも、私はしたいなって結構思っている。
陀宰くんはどうなんだろうって気になるけど、恥ずかしくて話題に出すことすら難しい。
「あー……瀬名」
「ん? そろそろ帰る?」
「いや! それはまだ大丈夫……なんだけど」
ついさっきまで大人びて見えていた彼が、急に同い年のクラスメイトに戻る。
それが可愛くて、ついつい笑うと、陀宰くんの手が私の頬に伸びてきた。
「陀宰くん?」
私の頬を両手で包み込むようにする陀宰くんに、胸の鼓動が早鐘を打ち始める。
あんまり見つめていたからキスしたいと思っていたのが伝わってしまったのかもしれない。
もしかしたら陀宰くんも同じように考えていたのかも。
どっちにしても照れくさいけど嬉しい気持ちが勝る。
そんな私の心中を知らない陀宰くんはすぐ近くにある私の目から視線を逸らしてしまう。
「嫌……は凹むから駄目だったら駄目って言ってくれ」
「凹むんだ」
「凹むだろ」
駄目と嫌の違いを訴える彼が可愛くて、また笑ってしまう。
こうやってほんの少しどちらかが動けば触れ合える距離で陀宰くんを見つめると新しい発見がある。
意外と睫毛長いんだ、とかもう何度もキスしてるのに耳まで真っ赤になっちゃうんだ、とか。
そういう陀宰くんの新しい陀宰くんを見つけては好きだと言う気持ちが強くなっていく。
「なんで笑ってるんだよ」
「ごめん、陀宰くんが可愛くて」
「可愛いって言葉は自分に使えよ」
「あと猫も?」
「どっちもか、わいいだろ」
「ふふ」
私に可愛いってすんなり言えないところも好き。
「陀宰くん、だいすきだよ」
すぐ傍にある彼の唇に自分の唇を押し付ける。
驚いたのか、石のように固まってしまった陀宰くんが愛おしい。
硬直がとけると陀宰くんは
「俺の彼女が可愛すぎる……」
そう言って深く深く息を吐き出した。
これから私たちは両手じゃ足りないくらいキスをしていくと思う。
きっと回数が重ねれば、緊張や躊躇いもなくキスする日が来るんだろう。
だけど、今はもう少し慣れないキスをする私たちでいたいなって思った。
そんなある日の放課後の話。