「こはるびよりってこはるのことー?」
「え?」
今日も図書館へやってきていた子どもたちの一人が俺の腰あたりにまとわりつきながら尋ねてきた。子ども達は俺よりもこはるによく懐いている。そんな彼女の名前と同じ言葉が出てきたことが気になったのだろう。
確かに『小春日和』という言葉を聞くと真っ先に浮かぶのはこはるの笑顔だ。
こはるのひだまりのようにあたたかな笑顔が、俺の頭には浮かんでしまう。
(いや、そういう意味ではない)
思い描いたこはるの笑顔を一旦頭の隅に置き、軽く咳払いをしてから口を開いた。
「それはこはるの事を言っているわけじゃなくて、秋から冬にかけて、暖かくおだやかな日のことを意味してるんだ。寒い日が続く中、不意に訪れる優しい日だな」
「ふーん、なーんだ。ありがとう、まさむね!」
子どもはそう言って、俺から離れるとこはるの元へと駆け出していってしまった。
こはるの方を見ると、子どもたちに囲まれて、楽しそうに笑っていた。
こはるの笑顔を見ると、優しい気持ちになる。そう、心の奥が暖かくなる。
(こはるの笑顔は俺にとってのこはる日和…なんてな)
我ながら寒い事を思い浮かべたな、と苦笑いを浮かべつつ、本の整理に戻った。
「そういえば今日、正宗さんのことあったかいねって褒められました!」
その日の夜、夕食も入浴も済ませ、寝るまでの時間二人で肩を並べて本を読もうとページを開いた時、こはるがそう言った。
「俺があったかい…?」
あったかいと言われるような出来事があっただろうかと今日一日を振り返ると、ふと俺の腰にまとわりついてきた子どもの顔が浮かんだ。
「ああ!あの子か」
「正宗さんに言葉の意味を教えてもらったって嬉しそうにお話してくださいました!その時にあったかい事も言ってましたよ」
「子どもの体温の方があったかい気がするけどな」
はは、と俺が笑うとこはるはにこにこと微笑んだ。
俺が誰かに褒められたり(この場合褒められたと言っていいのか分からないが)すると、こはるはそれはそれはもう嬉しそうに微笑む。
そんなこはるが可愛いな…などとは口にしてしまえばあっけなく理性が飛んでいきそうで言葉にするのは抑えている。
ふと、こはるが俺の肩に甘えるようにもたれかかってきた。
「正宗さんはあったかいです。それは私だけが知っていた事だと思っていたんですけど、他の子に知られちゃいました」
「嫌だったか?」
「いいえ。凄く嬉しいです。正宗さんの良いところを他の方にも知っていただけて」
「そうか」
「雨の日も、晴れの日も、風の日も…季節も関係なくて…
私の毎日は正宗さんのおかげでいっつもあたたかいです」
こはるが触れている部分から伝わる熱が心地よい。
こはるの体温が、こはるの笑顔が、俺の毎日をあたたかくしてくれている。
「こはる」
愛おしい人の名前を口にする。
こはるの頬に触れると、少し赤らんでいることに気付いた。
何度もこうして触れているのに、いまだに慣れない様子のこはるが愛おしくてたまらない。
「俺の毎日も、こはるのおかげであたたかいよ」
そう微笑んで告げ、触れるだけのキスを落とした。
キスの後、こはるは少し恥ずかしそうに笑うと、こんな事を言った。
「正宗さん日和です」
「え?」
少し驚き、思わず聞き返すと
「私が考えた言葉です」
と言って、陽だまりのような笑顔を俺に見せてくれた。