「なあ、逆じゃないか」
「たまには良いでしょう?」
ベッドに背を預けた俺の髪を楽しそうに梳く凜。
風呂からあがってきた俺を捕まえて、自分の部屋に引っ張り込んだ時は正直ドキドキしたが、まさか髪を梳かしたいと言われるとは思ってなかった。
「だっていつも写楽は私の髪を梳かしてくれるでしょう?だから私もしたいと思ったの」
まさか湯上りの彼女に触れる口実の一つとして、髪を梳かしてやるなんて言ってると知ったら凜はどんな顔をするだろうか。
「俺は梳かしてもらうほど長くないけどな」
「でも、人にやってもらう方が気持ちいいでしょう?」
それはそうだ。でも、きっと凜が感じてる気持ち良さと今俺が感じてる気持ち良さは種類が違う。
好きな女の指が、自分の髪や頭に触れる心地よさ。
きっと無意識だろう。鼻歌を歌うほどにご機嫌な様子な彼女に愛おしさを感じている。
「――ってことは、あんたはいっつも俺に髪を梳かしてもらってる時、気持ち良くなってるってことか」
「……!? 写楽、変な言い方はやめてちょうだい」
「いやいや、ついさっきあんたの口から出た言葉をそのまま言っただけだぜ」
顔が見たくて振り返ると、案の定顔を真っ赤にした凜がいた。
そんな顔をされると、もっと困らせたくなる。
「凜」
「あっ」
凛の腕を掴んで、引き寄せる。バランスを崩した彼女が俺の上に倒れ込んできたので受け止める。
ほんのりと桜色に色づいた唇が、すぐそこにあるのだ。
もう我慢しなくたっていいだろう?
「しゃ――」
「もう髪は十分だろう? 次はこっちの番だ」
本当は部屋に引き込まれた瞬間、抱きしめてキスをして押し倒したかったのだ。
それを随分我慢したのだから褒めて欲しいくらいだ。
凛の長い髪に指を通す。よく手入れされた髪の毛先を指に絡め、ついでのように彼女の唇を啄む。
ベッドの上に乗り上げ、彼女を押し倒す。長い髪がベッドに散らばり、期待するような眼差しと視線が交わる。
「もしかしてそのつもりだったか?」
「……ッ、ばか」
揶揄いまじりに訊ねると、思わぬストレートパンチを喰らう。
期待されていたのなら、それに応えるのが男だろう。
「凜、愛してる」
彼女の甘い吐息ごとを飲み込むように、深く深く口付けた。