彼女は天才だと心の底から思う。
どういう時に思うかって?
それはまさに今のような状況だ。
「ねえ、五右衛門。ちょっと味を見てくれない?」
「ん?」
今日は彼女が夕食当番だ。
髪を後ろで一つにまとめ、キッチンに立つ姿は他の男には見せたくないなと我ながら度量が狭いことを考えていると彼女に呼ばれた。
「今日は肉じゃがか」
「そうなの。でも、ちょっと味が薄いかと思って。だから味見をお願いします」
小皿と箸を受け取り、口に運ぶ。そんな俺を真剣な眼差しで見つめる凜。
「ん、もう少し味が濃くてもいいかもしれないな」
「やっぱり? じゃあ、もう少しお醤油を足そうかしら。ありがとう、五右衛門」
俺の言葉に安堵したように可愛らしい笑みを浮かべる。
醤油さしに手を伸ばし、鍋の中に慎重に醤油を足していく。
真剣な横顔。料理の匂いに混じる甘い甘い凜の匂い。
気付けば誘われるように彼女の後ろで揺れる髪に手を伸ばしていた。
「なあ」
彼女の手から醤油さしと菜箸を奪い、さりげなく手の届かない場所へと追いやる。
「五右衛門? どうかし――」
どうかしているのは重々承知だ。
手の届く場所に凜がいるだけで、すぐに我慢出来なくなる。
でも仕方ないだろう? 好きな女が目の前にいたら求めずにはいられない。
唇を合わせると、凛が小さく声をあげる。
その声が、たまらなく俺を煽る。
「はッ……ん、んぅ……」
最初は俺の胸を押し返して抵抗していた手が、次第にきゅ、と俺の服を掴むのはあまりにも反則すぎる。
「……ぁ、ごえもん」
唇を離すと、快感で濡れた瞳で俺を見つめる。
まだ止めないで、と訴える瞳に僅かに残っていた理性が砕け散る。
もう一度唇を重ねようとすると、凛は上擦った声を出す。
「待って、五右衛門」
「待てない」
「そうじゃなくて…これ以上はここじゃ駄目」
「それはつまり場所を変えればもっとしていいのか?」
「~~っ、ご想像にお任せします」
そう言って顔を真っ赤にして、ぷいっとそっぽを向く。
「あんたは天才だな」
「え?」
俺をその気にさせる天才、と耳元で囁くと凜の体がびくりと震えた。
我慢出来ずに部屋へ移動する前にもう一度だけ唇に噛みついた。
その日の夕食の肉じゃがは……ちょっと薄味だけど美味しいと評判だった。