温かい何かに包まれてる。
それは優しい香りがした。
いつまでもそれに包まれていたいけれど、そうはいかないことを私はよく知っている。
ゆっくりと意識が浮上する。
重たい瞼を開け、ぱちぱちと瞬きを繰り返し、自分が眠っていたことに気づいた。
(あれ……私、何してたんだっけ)
まだぼんやりとした頭で、眠る前のことを思い出そうとすると、自分のお腹の上に何かが乗ってた。
人の手だ。
「カ――ッ!」
叫びそうになった口元を慌てて覆う。
私のお腹の上に乗ってた手は、カイさんの手だ。
私の首の後ろのゴツゴツしたものも、カイさんの腕だと遅れて理解する。
何かに包まれていると思った正体はカイさんだった。
カイさんは私を抱きしめるようにして眠っていた。
それを意識した途端、全身の血が沸騰したみたいに熱くなる。
(そうだ、今日はカイさんの部屋に遊びに来ていて……)
テスト勉強と稽古で連日寝不足だった私は、久しぶりに会ったカイさんに安心してしまい、いつの間にか眠ってしまったようだ。
ちらりと部屋にある時計を見る。
カイさんの部屋に来たのは11時前だった。あれから二時間も経ってないようでほっとするが、部屋に着いて早々に寝てしまったことに申し訳なくなる。
ようやく熱も落ち着き、そっと隣で眠るカイさんを見つめる。
整った顔立ち。引き締まった身体。広い肩幅。どれも惚れ惚れしてしまう。
(そういえばカイさんの寝顔を見たのって……)
記憶を辿り、余計なことを思い出してしまい、また顔が熱くなる。
そうしていると閉じていた目がぱちりと開いた。
「すいません、起こしちゃいましたか」
「いや……そうか、立花の寝顔を見ていたら俺も寝てしまったのか」
「見……!? 寝顔を見てたんですか!?」
「ああ、そうだ。よほど疲れていたんだな。紅茶のお湯を沸かしてる間にうつらうつらしていた」
「すみません、折角カイさんに会ってる時に」
「いや。ここがお前にとって一番安らぐ場所になっているならいいんだ」
「カイさん……」
たまらずカイさんの胸に顔を埋める。
カイさんのいる場所が、私の一番安らぐ場所だ。
いつの間にか、そうなっていた。
「……希佐」
宝物のように私の名前を口にする。
私たちの間にあったほんのわずかな距離を埋めるように、カイさんが私をきつく抱きしめる。
カイさんの息が耳朶にかかると、ついこないだ触れたカイさんの熱を思い出した。
「カイさん……っ」
「もう眠気は大丈夫か?」
「はい、それはもう」
「そうか、良かった。だったらもう触れてもいいか」
「……っ!」
今だって触れて触れられてるのに。
真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしくて顔もあげることが出来ない。
だけど
「は、い」
消え入りそうな声は、カイさんの耳に届いたようで。
カイさんが小さく笑う気配がした。
次に窓の外を見る時は、きっと茜色に変わっているのだろう。
カイさんといるこの部屋だけ、時間の流れが遅くなればいいのに。
そんな子供じみたことを願いながら、唇にカイさんのぬくもりを受け入れるのだった。