たとえその日が来なくても(朝しの)

「ね、ね、絲ノ比丘尼様!このケーキ美味しそうじゃない?」
「あら本当。華やかね」
「でしょでしょ? やっぱりクリスマスケーキはこれくらい豪華じゃないと」

神も仏もあったものではないが、ここは雲ノ井寺。
仏の御心を人間に伝えるという建前で人間道へやってきた彼女に対して薊はくりすますという仏ではない神の誕生を祝う日の話をしているようだ。
すまほの画面を見せながら、あそこのイルミネーションの装飾が凄い映えるだとかクリスマスケーキはどこのが良いとかプレゼントはどうするなど随分と楽しげだ。
それに相槌をうつ彼女もどこか楽しそうだ。

(クリスマスケーキ……)

彼女は、私が作る菓子しか口にしない。
とあればやはりクリスマスケーキも作るしかないだろう。
クリスマスケーキといえどスタンダードなものからチョコレートケーキやブッシュドノエル、最近ではモンブランだってクリスマスケーキになるという。
今から練習すれば彼女の口に合うものが作れるようになるだろうか。
そんなことを考えてると、ひとしきり話し終わったのか、薊が部屋を出て行った。
薊がいなくなると途端に部屋の中が静まり返る。
その静寂が心地よいのは、私だけではない。
もちろん薊と楽しそうに話す彼女を見ているのは温かな気持ちになる。
ただ、それとは別の心地よさがある。

「クリスマスケーキですって」
「……人間道は節操がない」
「ふふ、そうね。でも、あの子が見せてくれた写真はどれも素敵だったわ」
「…………」

クリスマスまで、ここにいられるのかどうか。
その日が過ぎても彼女の隣に自分はいられるのか。
分からないことを、どうにもならないことを、考えてはいけない。
彼女の視線から逃げるように目を閉じ、深く息を吐く。

――とりあえず

そう、とりあえず。
クリスマスケーキを作る練習をしても問題はないだろう。

(後で薊に聞いてみるか)

彼女が喜ぶケーキを作れるよう。
そして、イルミネーションの装飾についても。

 

彼女が喜ぶのなら、なんでもしたいのだ。
ただ、それだけだ。

 

 

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