放課後。
威瑠くんと一緒に帰る約束をしていた私は、待ち合わせ場所で威瑠くんを待っていた。
いつもだったら彼の方が先に待っていてくれることがほとんどだ。
威瑠くんが遅くなる時はあらかじめ連絡をもらい、自分で教室で待つようにしてくれと言われているので、待ち合わせ場所に威瑠くんがいないのはなんだか新鮮だ。
(そうだ、新鮮ついでに威瑠くんの教室まで迎えにいってみようかな)
威瑠くんが驚き、そして喜ぶ顔を思い浮かべるだけで心が躍るようだ。
そうと決まれば、彼が来る前に教室へ行こう。もしも途中で会えたらそれはそれでいい。
そう思いながら急ぎ足で威瑠くんの教室へ向かうと――私は思ってもみない光景に出くわしてしまった。
放課後になって少し経つけれど、威瑠くんの教室は残っている生徒が多いみたいだ。
人気のある教室を覗き込むと、数人の女の子に囲まれた威瑠くんがいた。
「……え?」
てっきりクラスの用事か何かだろうと思っていたのに、まさか女の子に囲まれているなんて夢にも思わなかった私は驚きのあまり、その場で硬直してしまう。
女の子に何かを質問され、威瑠くんが答えると周囲がきゃあ!っとはしゃいだ声をあげる。
その光景をもやもやとした気持ちで見つめていると、不意に威瑠くんがこちらを向いた。
「!」
威瑠くんの視線から逃げるように慌てて顔を引っ込めるけど、時すでに遅し。
「久々李!」
威瑠くんは嬉しそうな顔をして私の元へ駆け寄ってきた。
ついさっき想像した彼の笑顔と全く一緒なのに、嬉しさよりももやもやが勝ってしまい、思わず顔を背けてしまう。
「ごめん、待たせて。ちょっと呼び止められて」
「ううん、いいよ。別に」
別に、の言い方が自分でもわかるほどに棘を含んでいた。
「ごめん、怒ってるよな。わざわざ教室まで来させちゃってごめんな」
「……そういうことじゃないの」
威瑠くんと並んで歩いていると、小さかった頃は同じくらいの身長だったのに、
いつの間にか身長も伸びて体つきもしっかりした威瑠くんにドキドキしたり、
一緒に並べることが嬉しくてニコニコしてばかりだったのに。
今日はもやもやした気持ちが勝ってしまい、うまく言葉に出来ない。
(――威瑠くんに喜んで欲しかっただけなのにな)
堪えきれなかったため息が零れると、威瑠くんは私の手を強く引いた。
「え、威瑠くん?」
「ごめん、久々李。ちょっと来て」
そう言って威瑠くんはずんずんと人気のない方向に向かって歩き出す。
掴まれた手が熱くて、いつの間にかもやもやは吹き飛んでいた。
周囲に人がいないことを確認すると、ようやく威瑠くんは立ち止まった。
「久々李、何かあった?」
「あの、威瑠くん。手……ここ、まだ学校の中だし」
指摘すると、威瑠くんは顔を赤らめながら慌てて手を離した。
「ごめん、久々李に嫌な思いさせたんじゃないかって思ったら焦っちゃって」
「……嫌な思いなんてしてないよ。してないけど」
「けど?」
言おうか考えあぐねていると、威瑠くんが不安そうな顔で私の言葉を待っていた。
きっと、このもやもやを飲み込んだら私にとっても威瑠くんにとっても良くないだろう。
そう言い聞かせ、覚悟を決めた私は口を開いた。
「……女の子に囲まれている威瑠くんを見て、ちょっとだけもやもやしちゃった」
「それってさっきの教室でのこと?」
「うん……」
私が頷くと、威瑠くんは突然その場にしゃがみ込んでしまった。
「え、威瑠くん!? どうしたの、具合でも――」
彼の後を追うように私も慌ててしゃがむと、次の瞬間威瑠くんに抱きしめられていた。
「ごめん、さっきのは久々李が心配するようなのじゃなくて……
あの子たちに久々李とのことを聞かれてただけなんだ」
「え、私とのこと……?」
「どっちから告白したの? とか、幼馴染って聞いたけどいつから好きだったの?とかそういう話」
言われて思い出す。
女の子が威瑠くんに問いかけ、彼がそれに答えると周囲の子がきゃあきゃあと声をあげていた。
それは私のクラスでもよく見るコイバナをしている時の様子と全く同じだった。
「ごめん、私勘違いして」
「ううん、久々李を待たせてまで答えるものじゃなかったなって反省してる。
それに久々李がヤキモチ妬いてくれるなんて思わなかったから、オレ今すっげー舞い上がってるかも」
威瑠くんに言われて、ようやくもやもやの正体がわかった。
(ヤキモチを妬いていたんだ、私)
自覚した途端、恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちになっていた。
火照った頬を威瑠くんの指が優しく触れる。
「久々李が思ってるより、ずっとずっとオレは久々李が好きだよ」
「威瑠くん……」
そう言って微笑むと、威瑠くんはもう一度周囲を確認して、こっそりとキスをしてくれた。
(私も多分――私自身が思うよりもずっとずっと威瑠くんのことが好きみたい)
自覚させられた気持ち全てが、触れ合う唇から伝わったら少し恥ずかしいな、と思いながら。
それでもやっぱり少しでも伝わればいいなと願って、私たちは何度もキスを繰り返した。