(……眠れない)
ベッドに入ってからどれくらい時間が経っただろうか。何度目かの寝返りを打ったものの、なかなか寝付けない。
普段だったらベッドに入ってほどなく眠りに落ちるのに、今日は目が冴えていてなかなか眠れない。もう眠ることを諦めようかと思った時だった。
「眠れないんですか?」
「リュカさん……? 起こしてしまいましたか」
「いいえ、私も寝付けなかったので。良かったら夜更かしに付き合ってくれませんか?」
そう誘われて、ベッドから起き上がる。リュカさんは何に付き合って欲しいのだろうか。あれこれ考えていると「少し待っていてください」と言って、リュカさんはベッドから出ていった。
寝転がったままでいるのも失礼だろうと思い、起き上がってカーディガンを羽織る。
日中は気温も高い日が続いているが、やはり夜はまだ冷える。腕をさすって彼が戻ってくるのを待っていると、しばらくしてカップを二つ持ったリュカさんが戻ってきた。
「熱いので気を付けてくださいね」
「ありがとうございます。ホットミルクですか?」
「はい、眠れない時にはこれが一番効きますよ」
渡されたカップを両手で包む。ふうふうと息を吹きかけてから口をつけるとじんわりと身体が暖かくなる。
「美味しい。これは砂糖じゃなくて蜂蜜ですか?」
「さすがセレスくん。そうです、ほんの少し蜂蜜を垂らしています」
「優しい味がしますね」
もう一度カップに口をつける。ほっとするような味わいは、なんだかリュカさんに似ていた。
「これはあの子が小さい頃、よく作ってあげてたんです」
「思い出の味なんですね」
ナディアの事を話すリュカさんはとても優しい表情になる。ナディアを想う気持ちが伝わってきて、私まで嬉しくなる。
「ありがとうございます、リュカさん。大切な味を教えてくれて」
「これからは大切なものを君と分け合っていきたいと思っているので」
そう言って、リュカさんは私の肩を抱き寄せた。
コテンと彼に寄りかかると、触れている部分からリュカさんのぬくもりが伝わってくる。やっぱりホットミルクは彼に似ている。違うのはリュカさんに触れるとほっとするだけじゃなくて、心臓がどうしようもなく高鳴るというところ。
「リュカさん……あの」
「ところで、どうしていつもベッドに入るとすぐ可愛らしい寝息を立てる君が、今日に限って寝付けないのか分かりますか?」
「え? リュカさんは分かるんですか?」
自信たっぷりに頷くリュカさん。自分でもどうして寝付けないか考えても分からなかったのにリュカさんには分かってしまうんだ。
「一体どうして……」
「それはですね……」
リュカさんはたっぷりと間を置いてから説明を続ける。
「今日、君はナディアと一緒にうたた寝をしましたね?」
「……あ」
指摘されて思い出した。ナディアの部屋の窓から差し込む日光がぽかぽかと温かくて、彼女と一緒に本を読んでいたはずが、いつの間にか彼女のベッドに突っ伏して眠ってしまったこと。
「どうしてリュカさんが知ってるんですか?」
「君たちが寝ている時に部屋を訪れたからですよ。まるで本物の姉妹のように仲良く寄り添って眠っていたので少し妬けてしまいました」
リュカさんの言葉に顔が熱くなった。
「……でも、もうすぐ本当に姉妹になるんですから」
自分ばかりドキドキするのは居た堪れなくて、つい言い返すと今度はリュカさんの頬が赤く染まる。
「そうですね。もうすぐ家族になるんですから」
リュカさんはその言葉を噛みしめるように柔らかな笑みを浮かべる。そんな顔を見てしまったら愛おしさが溢れて仕方がない。
「セレス、もう眠れそうですか?」
「……いいえ」
「だったら」
リュカさんがそっと顔を近づける。それに応えるように私は目を閉じた。
眠れない夜、彼と感じたのはささやかだけど、ずっとずっと欲しかった幸福だった。