「獲端くん」
「……」
「獲端くん、こっち向いてほしいんだけど」
私に背を向けてソファに座る獲端くんの名前を呼ぶ。
名前を呼ぶ度にぴくりと体が跳ねるのに、一向に振り向こうとしない。
私の彼氏はちょっと照れ屋さん……いや、女の人が嫌いで、女の人は嫌いなんだけど、それでも私を一人の人間として見て、恋愛対象として好きになってくれた。
想いが通じ合った私たちは晴れて幸せな恋人同士……となるかと思いきや現実は甘くない。
私に触れたいと言ってくれる獲端くん。けれど、なかなか踏ん切りがつかないのかスキンシップは割と少な目。
それをもう少し欲しいとねだってみたらいつも通りの喧嘩に発展し、今に至る。
「キスしてほしいっていうのがそんなに駄目なのかなぁ。もう何回もしてるのに」
獲端くんからキスをしてくれた時は心が震える程嬉しかった。
手を繋ぐのも、抱きしめられるのも、どれも好きだけど、キスはやっぱり別格だと思う。それをたまーにねだっただけでどうして喧嘩になっちゃうんだろう。
思わずため息をつくと、獲端くんの肩がぴくりと震える。
「獲端くん、近づいてもいい?」
「いっつもそんな事聞かないで、くっついてくるだろ。お前は」
「そうだけど! でも、今はそんな雰囲気じゃないから許可を求めたんだけど」
「……好きにしろ」
許可を得たのでそろりと獲端くんに近づく。ぺたりと肩に触れると獲端くんの体温が服越しに伝わってくる。
「ねえ、獲端くん。怒ってる?」
「怒ってねぇ」
「もうすでに怒ってる声だよ、それ」
「だから怒ってねぇって言ってるだろ」
そう言って、獲端くんが振り返った。
これ以上、言い合いはしたくなかった。だから私は思い切って獲端くんの唇をふさいでみた。
「~っ!」
「ごめん、我慢出来なくなった」
好きな人に触れたいという欲求は際限ないという事を獲端くんを好きになって初めて知った。
「…怒った?」
「怒ってねぇ。……ばつが悪いだけだ」
「ばつ?」
「好きな女にキスをねだられて、なかなかしてやれなかったのに。
その女にあっさりとキスされるなんて情けないだろ」
「情けなくなんてないけど」
よく見れば獲端くんの顔は耳まで真っ赤になっていた。
怒っていたんじゃなくて照れてただけなんだとようやく気付くと、頬が緩む。
「でも、獲端くんからのキスも欲しいよ。私は」
「だからあんまりそうやって煽るな」
「煽ってるつもりはないんだけど…!ただ本心を言ってるだけで」
「ああ、ああ、分かった」
頬を膨らませた私を見て、獲端くんがようやく私の瞳を見上げる。
「努力はするって言ってるだろ」
そして私よりも大きくて骨ばった手が私の頬に優しく触れた。
獲端くんからのキスは、私からのキスよりもずっと熱くて、幸せに溺れそうだった。