猫のように可愛らしい(シオエマ)

廊下を通りかかると、微かに人の声が聞こえた。
誰がいるんだろうと思い、声のする方を覗くと、そこにいたのはシオンだった。
少し離れたところには白猫のアンジュがいた。

「アンジュ、アンジュ……今日はお前が好きそうなお菓子があるんだ」

どうやら今日もアンジュと仲良くなるべく、シオンが奮闘しているようだ。
シオンは猫が好きだ。だけど、悲しいかな。その想いがなかなかアンジュに伝わらない。
シオンの差し出した手のひらの上には、猫用のクッキー。アンジュは鼻をひくつかせるものの、なかなか近づこうとはしない。
一歩、二歩……とアンジュは警戒しながらもシオンに近づいていく。

(後もう少し……!)

ドキドキしながら見守っていると、思いのほか足に力が入ってしまったのか、ギシッとシオンの足元の床が音を立てた。
その音に驚いたのか、アンジュはシオンから距離を取り、あろうことか私の足元に逃げてきた。

「アンジュ……! って、エマどうしてここに……!」

アンジュを追うように振り向いたシオン。まさか私がいると思わなかったのだろう。驚きながらも、恥ずかしいのか、頬が赤くなった。

「ごめんね、声が聞こえたから気になっちゃって……」
「いや、別に構わないが……それより」
「にゃあん」

私の足にすり寄るアンジュを羨ましそうにシオンが見つめる。
私はアンジュを踏まないよう気を付けながら、その場にしゃがむと、彼女の鼻先に自分の手の甲を差し出した。
すると、アンジュは私の匂いを嗅ぎ、その場にごろんと転がった。

「なっ、そんなことが!?」
「今日のアンジュは機嫌がいいのかもね」
「そう……なんだろうか」
「シオンも近づいてみたらどうかな」
「いいのか?」
「うん」

シオンは恐る恐る私の隣に移動し、アンジュの様子を伺う。
アンジュもシオンをちらりと見るが、逃げようとはしなかった。
触りたい。でも、触ったら逃げてしまうかもしれない。シオンが葛藤しているのが手に取るように分かった。

「シオンは猫のどういうところが好きなの?」
「どういうところって……ふわふわとしているところとか、丸い瞳とか……後は集中して課題を解いている時、気づいたら俺の横にいたりするのに、いざ構おうとすると途端に興味をなくすところとか」

次から次へと出てくる好きな部分。

「……あと、耳の形も愛らしいな」
「ふふ、シオンは本当に猫が好きなんだね」

でも、耳の形と言えば――
シオンの耳は私の耳と違って、少しとんがっていることを思い出した。
髪の隙間から見える彼の耳をこっそりと盗み見る。

「……触りたいのか」
「え? いいの?」
「……まあ、お前なら……少しだけだぞ」
「うん、ありがとう」

まさか触らせてもらえるとは。
そっと手を伸ばし、シオンの耳に触れる。
形は違えど、手触りは自分の耳と同じだった。

「シオンの耳って綺麗な形してるね」
「……耳の形に綺麗も何もないだろう」
「そうかなぁ。アンジュの耳が可愛いというのと似てると思うけど」
「それを言うならお前の瞳だって猫のようにくりっとしてて愛らし――」
「え?」
「! なんでもない、もう十分だろう」
「あ、うん。ありがとう」

気づけば私が触れていた耳まで真っ赤になっていた。
今、聞き間違えじゃなければ私のことを愛らしいって言った……?
シオンの熱がうつったのか、じわじわと私の顔を熱くなる。

「にゃあん」
「あ、ごめんね、アンジュ! ええと、触ってもいいのかな?」
「にゃん」

二人の世界に入ってないで、私を構えというようにアンジュは一鳴きする。
ふわふわの毛をシオンと撫でながら、隣のシオンのことばかり気にしてしまうのだった。

良かったらポチっとお願いします!
  •  (11)