アランは私の耳を舐めるのが好きなんだと思う。
今日も目を覚ますと、後ろから私を抱きしめる大きな身体と耳に寄せられる唇の気配を感じた。
「ひえっ……!」
「ん、起きた? おはよう、リネット」
色気の欠片もない声をあげる私に、アランは朝から色気を含んだ声で囁く。
ちろりと耳を舐められ、びくりと体が跳ねる。
「ねえ、アラン」
朝から大変刺激が強いと体をよじり、彼の胸を押し返すが離れるどころか強く抱きしめられてぴったりと身体が密着してしまう。
「ねえ、アラン。ちょっと、待って……」
「待たない」
そう言ってアランは私の唇を奪う。
触れ合うだけのキスなんかじゃない。
薄く開いていた唇の隙間からにゅるりと舌が入り込んできて、私の口内を弄る。
「んッ、はぁ……ふ、んぅ」
熱い舌は私の吐息ごと絡めとってしまう。
頬にかかる私の髪をそっと耳にかけると、何を思ったのか耳朶を指の腹でゆっくりと撫でられる。
「もう、アラン……どうしてそんなに耳ばかり触るの?」
「ああ、他のところも触って欲しかった? 例えば……」
アランは私の脚の間に自分の片足を滑り込ませると、太ももをすりすりと擦ってくる。
昨日の夜も愛し合ったまま眠ったので、今の私たちは何も身に着けていない状態だ。
かろうじて肩までかかった布団が私たちの睦事を覆い隠してくれているが、
よくそんなに器用に足を動かせるものだと感心しそうになる。
「そうじゃなくて……!
アランってば、いっつも私の耳を舐めたり触ったりするでしょう?
そんなに耳が好きなの?」
ずっと気になっていた事を切り出すと、アランは驚いたように目をぱちくりさせた。
「まあ、そうかもね。キミの耳は美味しいし」
味の分からないアランが、美味しいとは。
一体どんな味がするのか気になってしまう。
「それってバブルティーよりも?」
「あのもちもちとした食感よりも愉しい気持ちになるね」
「私の夢よりも?」
「きみの夢は最上級のご馳走だから、それと比較することは難しい。
――だけど」
ふっと、目を細めて笑った後。アランは私の耳朶をパクリと口に含む。
アランの唇しか知らないけど、男の人だというのにしっとりと柔らかい唇が私の耳朶を食み、耳孔を舌がくちゅくちゅと出入りする。
「ひぁあっ、ああッ、んぁ、やッ、待っ……アラン、そんなにしちゃッ、ぁ」
ダイレクトに水音が響き、ぞくぞくとしたものが背筋を駆け抜ける。
抵抗空しく、アランの舌は好き勝手に動き回り、私の身体に快感を与え続ける。
怖いくらいの快感に嬌声をあげることしか出来ない。
「はぁ、あっ……あッ、んンッ」
どれくらい耳を舐められていたんだろうか。
時間にすれば数十秒・三分も経ってないかもしれない。
だけど、一時間近く舐められていたような気持ちになる。
身体から力が抜け、理性がトロトロと溶かされてしまった。
「耳を舐めると、キミはとてつもなくそそる顔をするから……
耳が好きというより、リネットのそういう顔が見たいだけなんだけどね」
「……もう、アランのいじわる」
「せっかく本当のことを教えたのに」
「……」
残念だと肩をすくめるアランを快楽で濡れた瞳で睨みつける。
その時、ふと気づいた。
私に耳があるのだから、アランにも耳があるということを。
「アラン」
名前を呼ぶと、彼がこちらを向く。
アランの目も熱を孕んでいた。
彼を手招きすると、不思議そうにしながらも私に体を寄せた。
(今だ――!)
私はアランの首をがっちりと掴むと、耳に唇を寄せた。
「リネット、なにを……!?」
「同じことをしてあげるの」
そう言い切った私は、アランの耳朶を唇で食み、耳孔に舌を差し込んだ。
くちゅくちゅと音を立てたいのに、あまりうまくいっていない気がする。
それでも舌を動かすと、アランの体がびくりと跳ね、押し殺した声が聞こえる。
(これはちょっと楽しいかも……)
悔しいが、アランが耳を触りたがる理由を納得してしまいそうになる。
ちゅ、ちゅ、と耳に口づけたところで、アランが私の腕を掴んだ。
「きゃっ!」
「今朝のキミは随分大胆だね」
「え、ちょ……んンぅ!」
気づけばベッドに引き戻され、強引に口づけられる。
流し込まれる熱に、身体の奥がじわじわと昂っていく。
「ふ、んぅ……はぁ」
「リネット……」
触れた指と指を、気づけば絡め、恋人繋ぎになっていた。
少し掠れた声で、愛おしそうに私を呼ぶには、私の愛おしい人で。
「もう……朝なのに?」
「朝でも昼でも夜でも関係ないさ。キミだってそうだろ?」
ちゅ、と子供みたいなキスをしてアランが笑う。
彼の後ろには悪魔の尻尾がゆらゆら揺れているのが見えた。
私の尻尾も、多分同じように揺れているだろう。
「仕方ないわよね、私たち……」
「ああ、仕方ないさ。俺たちは悪魔なんだから」
「ふふ。アラン、もう一度キスをして?」
額をこつん、と重ね、私たちは笑う。
じゃれあうようにキスをしながら、太陽がてっぺんに昇ってもベッドから出られる気がしない。
でも、それでもいい。
だって私たちは悪魔だし、夫婦なんだから。
こんな日が、たまにあったって悪くない。