特別(羽玲)

付き合う前の羽鳥さんの印象は隙のない人だった。
だけど、今は随分と印象が変わった……と思う。

 

「……羽鳥さん」
「ん? なに、玲ちゃん」

土曜日の夜。
羽鳥さんに誘われて、彼の部屋に遊びに来ていた。
手土産に買ってきたケーキを一緒に食べながら、彼の表情を盗み見る。
一見いつもと変わらないようにも見えるが、少しだけ顔色が悪い。あと、隠したつもりだろうけど、うっすら隈が出来ている。
手に持っていたフォークを置き、羽鳥さんに向き合う。

「今日は何時間寝ましたか?」
「いつもより寝たよ。せっかくの玲ちゃんとのデートだからね。玲ちゃんは?」
「私は久しぶりに八時間ぐっすり眠りました。おかげですっきりしてます」
「そう、それは良かった」

羽鳥さんは笑みを浮かべながら、紅茶に手を伸ばす。カップに届く前にその手をぎゅっと掴んだ。

「玲ちゃん? 今日は随分大胆だ――」
「羽鳥さん、全然寝てないんじゃないんですか?」

羽鳥さんの言葉を遮って、言葉をぶつけると羽鳥さんは少し驚いた顔をした。

「……どうして?」
「これでも羽鳥さんの恋人なので。羽鳥さんが疲れてる事くらい分かりますよ」
「―-っ! はは、そっか。そうなんだ」
「そうですよ。だから少し寝てください。私と過ごす時間のために無理はしないでください」

羽鳥さんは困ったような笑みを浮かべながら、私の手を握って自分の頬へと持っていく。頬を摺り寄せられた手のひらが急に熱を帯びる。

「君と過ごす時間のためならいくらだって無理がしたいんだよ」
「……っ!」

その声はとても切実で。
心臓を鷲掴みにされたような気分に陥った。
少しの間、私と羽鳥さんの間に沈黙が落ちる。羽鳥さんの頬に触れている手のひらをそっと動かして彼の頬を撫でると、羽鳥さんが声を出さずに小さく笑った。

「でも、玲ちゃんを心配させちゃ悪いからちょっとだけ眠らせてもらおうかな」
「……! ぜひそうしてください」
「じゃあ、玲ちゃん。膝枕してくれる?」

気づけばいつもの調子の羽鳥さんに戻っていて私は内心ほっとする。
だから今日は特別。―-ううん、今日が特別なんじゃない。羽鳥さんは私の特別だから。誰よりも甘やかしたい。

「いいですよ、寝心地は保証しませんけど」

そう言いながら片手でぽんぽんと膝の上を叩く。
羽鳥さんは自分から言い出したくせに驚いた顔をして、私を見つめる。

「本当、玲ちゃんには驚かされてばっかりだなぁ」
「それはお互い様です」

私の膝に寝転がった羽鳥さんの耳が赤くなっている事に気づいた私は、つられるように熱くなった頬をそっと撫でるのだった。

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