「お嬢さんは夢を見る事があるか?」
「私ですか? そうですね、眠りが浅い日は割と見ますね」
仕事終わり、私は貴臣さんの部屋に来ていた。
温かい紅茶を一口飲むと、茶葉の良い香りがする。この一口だけで上等な夢を見れそうな気がする。
「貴臣さんは夢、見るんですか?」
「ああ。昨日、夢を見たんだ」
「へー! 貴臣さんがどんな夢を見るか気になります」
貴臣さんはショートスリーパーだ。あの短い睡眠時間でどんな夢を見ているのか興味が沸いた。
思わず身を乗り出すと、貴臣さんは目を細めて笑う。
「昨日の夢はゴリラになる夢だった」
「ゴ!?」
予想もしないワードに思わず声が出てしまう。
「ああ。ゴリラになった俺はゴリラの友人とジャングルを駆けまわっていた。夢でしか出来ない貴重な時間だったな」
「……貴臣さん、凄いですね。こう、ゴリラになった事をあっさりと受け入れてそんな事を言えるなんて」
「そうか?」
「私だったらびっくりが勝りすぎて、貴重な時間だったって気づけない気がします」
夢は自分の記憶にあるものしか見れないと聞いた事がある。
もしかしたら貴臣さんはゴリラに興味があって、調べた事があったりするのかもしれない。そう考えたらちょっと可愛いな、と思った。
その時、貴臣さんの手が伸びてきて私の頬をゆるりと撫でる。
いつもしている手袋は外していて、貴臣さんの指が直接私の頬に触れていた。
それだけでもドキリと心臓が跳ねるのに、止めを刺すように甘い笑みを浮かべていた。
「しかし、俺にとってはお嬢さんといるこの瞬間が何よりも貴重な時間だ」
「―-っ! わ、私もです」
なんとか言葉を絞り出すと、貴臣さんは「そうか」と嬉しそうに笑う。
なんて心臓に悪い人なんだろう。きっと今、私の顔は真っ赤になっているに違いない。頬に触れる貴臣さんの指に自分の手を重ねてみると、貴臣さんもつられるように頬を赤らめるのだった。