いっとうとくべつ(弁遮)

季節は巡り、もうすぐ冬がやってくる。
弁慶と二人で暮らし始めての初めての冬だ。
十分に蓄えておいた薪の束を一つ、使うべく持ち上げようとしたところで慌てた声が私を呼んだ。

「姫! そのような力仕事は拙者がしますので!」
「ああ、弁慶。いや、これくらい私だって出来るぞ」

けれど、弁慶は私が持ち上げようとしていた薪に素早く手を伸ばしてひょいっと持ち上げてしまう。
大きな体なのに、弁慶は俊敏に動く。
それは戦いの場でも、日常生活でも変わらない。

「ここでよろしいですな?」
「ああ、ありがとう。
それにしても……弁慶はちょっと甘やかしが過ぎるんじゃないか?」

弁慶が運んでくれた薪を追加すると、少しずつ部屋の中が温まっていく。
パチパチと音を立てる薪を見つめながら、弁慶に文句を言うと彼は少し困ったような笑みを浮かべた。

「姫が出来る事は分かっていますが、拙者が姫をいっとう甘やかしたいのです」
「……それを甘やかしすぎるっていうんだと思うんだが」

しかし悪い気はしない。むしろ嬉しい気持ちが強い。
ほんのりと赤くなった頬を見られるのが恥ずかしくて、ふいと視線を逸らす。

「でも、普通の女性扱いしてくれるのは……嬉しい」
「姫、そうではございませぬ。これは普通の女子扱いではなく……愛おしい妻扱いをしているのです」
「!!」
「あなた様は拙者の愛おしい愛おしい妻ですから」
「……あ、う」

畳みかけるように告げられ、口をぱくぱくと動かす事しか出来ない。
弁慶は自分が恥ずかしい事を言った自覚がないようで、にこにこと笑みを深めるばかりだ。
悔しい。弁慶にとって私が愛おしい妻であるならば、私にとって弁慶は愛おしい夫なのだ。
それを弁慶に自覚させたい。

「弁慶、ここに来い」
「はて……?」

ぽんぽんと自分の太ももを叩く。すると私が何を求めているのか理解できないようで小首をかしげる。

「膝枕してやる。来い」
「なんと!? いえ、そのような事をしたら姫の足がつぶれてしまいます!」
「そんなわけないだろう!」
「ですが……!」
「今の私たちは夫婦だろう? 私だって愛おしい旦那をいっとう甘やかしたいだけだ」
「ぐ……姫……で、では」

顔を赤らめた弁慶が大きな体をゆっくりと傾け、私の太ももに頭を乗せる。
出来る限り重さをかけないようにしているのだろう。体がぷるぷると震えている。

「おい、弁慶。もっと力を抜け」
「それは……! それはどうかご勘弁を! これだけで拙者はいっぱいいっぱいでして!」

弁慶は耳まで真っ赤になっていた。
それが可愛らしくて、思わず笑みが零れる。
そっと弁慶の頭に手を置き、幼子を撫でるように弁慶の頭を撫でてやる。

寒い冬が来ても弁慶とこうしていればきっと乗り越えられる。
いや、たとえどんな困難があったとしても弁慶が傍にいてくれればきっと大丈夫だ。
愛おしい夫になった弁慶を見つめながら、私はようやく手に入れた幸福に触れた気がした。

 

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