「今日はいい買い物をしたな」
「ああ、そうだな。まさかこんなところで出会えるとは思ってもみなかった」
今日、春玄と町を歩いていた時のことだ。
町に本が出回る事だって珍しいというのに、兵法について書かれている本を見つけてしまった。
その本はかつて私たちが鞍馬寺で読んでいた本だった。
今は身軽な身。兵法について学ぶ必要のない生活をしているはずが、その本を見つけた私と春玄に、それを買わないという選択肢は存在しなかった。
決して裕福な旅ではない。路銀がなくなれば稼ぐ。その繰り返しだ。お金がなくなればまた稼げばいい。そう二人で決めて、その本に手を伸ばした。
結局私たちは、学ぶ事が好きなんだろう。そう笑いあった。
「春玄、先に読んでくれ」
「大事そうに抱えてきたのは遮那だろう。遮那から読んで構わない」
「いや、春玄……」
「いや、遮那から」
まるで押し付け合うみたいに本をぐいぐいと押し合うことしばしば。
ふと我に返った私たちは思わず笑った。
「じゃあ、こうしよう。一緒に読むのはどうだ?」
「ああ、それが良い。なんでもっと早く気付かなかったんだろう」
春玄の提案に頷きながら、彼の隣に座る。すると春玄は小さく首を横に振った。
「それでは読みにくいだろう? 子供の時と違って、俺たちの体は大きくなったんだから」
子供の頃はよく二人並んで一つの書物を読んだ。
その時と同じように読むつもりだったのだけれど、春玄は違うらしい。
「じゃあどうやって読むんだ?」
「遮那、こっちへ」
「ああ……!?」
春玄に手招きされるまま彼の前に座ると、春玄の両手が私の体の前に伸びてくる。まるで抱きすくめるような恰好だ。
「ほら、これなら読みやすいだろう。――遮那?」
春玄が不思議そうに私の名を呼ぶ。
背中には春玄のぬくもりが伝わってきて、心臓が痛いほど高鳴る。
この恰好に照れているのは私だけだという事が、また悔しい。
恥ずかしさを誤魔化すように後ろにいる春玄を睨みつけると、春玄は小さく笑った。
「ふっ。遮那、顔が真っ赤だ」
「なっ!!」
春玄は嬉しさを隠しきれないといわんばかりの顔でそう言った。
その顔がほんのり赤くなっている事に私が気づかないはずがない。
「春玄だって顔が赤いぞ?」
「それは当然だろう。愛おしい人に触れているんだから赤くもなる」
「……! わ、私だってそうだ」
「はは、そうか」
開こうとしていた本をぱたりと閉じて、代わりに私をぎゅっと抱きしめる。
とくんとくんと春玄の鼓動が私の鼓動に重なる。
春玄も同じように鼓動を高鳴らせていたのかと思ったら、どうしようもなく嬉しくなった。
「遮那、この本を読むのは明日にしないか?」
「ああ、私もそう思っていたところだ。今は春玄に触れたい」
そう告げると、春玄はまた笑う。
「肝心なところを先に言われてしまったな。俺も遮那に触れたい」
「ああ、いくらでも触れてくれ。私はずっと春玄の傍にいるんだから」
何よりも大切なものを見つけた私たちは、今日も明日も変わらずずっと傍にいる。