恋人にキスをせがんでみた~渡部悟の場合~

「悟さん、キスしてもいいですか?」

深夜二時。音を立てないようにそーっと開かれた玄関の前で、私は悟さんの帰りを待っていた。体育座りしている私を見て、悟さんはぎょっとする。
「お帰りなさい、悟さん」
「玲ちゃん、こんなところで待ってたら風邪引くでしょ!」
「ちゃんと防寒対策はばっちりにしてましたよ」
もこもこのパジャマに、靴下。それに床には悟さんが買ってくれた電気カーペットを敷いていた。
「だからって――」
「それより悟さん! お帰りなさい」
「……ああ、ただいま。玲ちゃん」
ようやくその言葉を思い出したのか、悟さんの表情がふっと和らぐ。そんな彼に両手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめると外がとても寒かったのだろう、悟さんの体はひんやりとしていた。
「玲ちゃん、風邪ひいちゃうよ」
「悟さんこそ風邪ひいちゃいますよ。それに知ってますか? 三十秒のハグには、一日のストレスの三分の一を解消するパワーがあるって」
「はは、好きな女に抱きしめられたらストレスなんてどっか行っちゃうよ」
悟さんは耳元で笑いながら、ぎゅっと私を抱きしめ返す。三十秒なんてあっという間に経ったが、それでも私たちは離れる事が出来ない。ちらりと顔を上げると、悟さんと目が合う。目の下にうっすら隈が出来ている事には気づいていた。仕事柄、疲れを見せない人だから心配なのだ。少しでも自分が力になれるのならなんだってしたくなる。だって大好きな人だから。
なんて思いながら、本当は自分が悟さんの事が恋しかっただけなのかもしれない。くっついていたらもっと先が欲しくなる。
少し背伸びをして、キスをねだってみると悟さんは私の額に唇を押し付けてからこう言った。
「それは俺の台詞だよ、玲」
甘いキスに酔いしれながら、二人の夜は深まっていくのだった。

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