「峻さん、キスしてもいいですか?」
ここ二週間ほどすこぶる忙しい。始発で登庁し、日付が変わるまで仕事をしても、仕事の山は一向に減らない。今日もがむしゃらに仕事をして、少し遅くなった昼休憩をとるべく、コンビニ袋片手に屋上に上がるとそこには既に先客がいた。
「峻さん! 戻ってたんですね」
「ん」
ベンチに腰掛け煙草を吸う峻さんの隣に座る。
「今日忙しいですね……」
「だな。この後もまた外出るから」
「関さんへの報告に一旦戻ってきたんですか?」
「それもある」
「お疲れ様です。私もこれ食べたらまた頑張らないと……! あ、峻さんも食べます?」
コンビニ袋からおにぎりを二個取り出して、峻さんに見せるが、首を横に振られてしまう。
「人の心配してないで自分の心配しろ。目の下のクマ、大分やばいぞ」
こつんと頭を小突かれて顔をあげると、峻さんの優しい視線に胸がきゅんとしてしまう。
「じゃあ、一つだけいいですか?」
「何だよ」
「今日の仕事が終わったら、キスしてもいいですか?」
「は?」
人は忙しいと癒しを求めるというか。ご褒美をぶら下げておくと頑張れるというか。呆れた顔で私を見つめる峻さんを見て、はたと我に返った。
「すいません、今のな――」
慌てて取り消そうとした瞬間、峻さんが私の顎を軽く持ち上げて、かすめるようにキスをした。
「……!」
「終わったらもっと凄いキスやる」
「なっ!?」
「だからいい子に待ってろ」
ぽんぽんと軽く私の頭を撫でると、峻さんは立ち上がる。立ち去ろうとする背中に何か言葉をかけたいけど、うまく頭が回らない。屋上のドアを開けた峻さんは外行きの笑顔でこちらを振り向いた。
「下に戻る前に鏡を見た方が良いですよ、玲さん」
「峻さんの意地悪! お互い頑張りましょうね!」
言いたい事を早口で伝えると、扉が閉まる寸前峻さんが素の笑顔を見せてくれて、再び顔が熱くなった。
(ああ、もう……! 仕事頑張ろう!)
頬をぺちんと両手で叩いて気合いを入れ直すのだった。