紙袋さんが淹れてくれたチャイを飲みながら過ごす休日。
目の前にいる紙袋さんは、いつも通り紙袋を被っていた。
お付き合いをするようになってから、私の前では外す事も増えているのだけれど、それでも被っている日だってある。今日がそれだ。
せっかくの休日だし、紙袋さんの顔を見ながらおしゃべりしたいなという気持ちがチャイを一口、二口飲むたびにむくむくと心の中で膨らんでいく。
そもそも紙袋に描かれている目は穴が開いているわけではない。
特殊な訓練を積んで、紙袋を被って生活できるようになったのだろうけど……
(紙袋を被って生活するって、どんな感じなんだろう)
「なんですか、人の顔をじーっと見つめて」
「すみません。紙袋さんの紙袋を見つめていました」
「おや、俺の顔には興味がないと?」
「そういうわけじゃ……!紙袋さんの紙袋も、お顔も大好きです」
「……まあ、良いでしょう」
「それで、紙袋さん。お願いがあるんですけど……」
「何ですか?」
「紙袋を貸していただけないでしょうか?」
「……………………はあ?」
長い沈黙の後、紙袋さんは呆れた声を出す。
「その、紙袋被って生活した事がないので、どんな感じなのかな!って知りたくて!!でも駄目ですよね、普段紙袋さんが被っているものなんだから」
「それくらい良いですけど」
「え!?良いんですか!?」
「赤の他人に被せるのは勿論嫌に決まってますけど、貴方だったら問題ありません」
「問題ないんですか……」
まさか色よい返事を頂けると思っていなかったので、紙袋さんの言葉をオウム返しに言う事しかできない。
すると、紙袋さんは紙袋をあっさり脱いでしまう。
目が合うと、ドキリと心臓が跳ねた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。では……」
躊躇なく渡された紙袋を恐る恐る被ってみる。
(わ、何にも見えない……!)
紙袋さんが目の前にいるという事前情報があるからだろう。彼の気配は分かるが、それ以外は何も分からない。きょろきょろと周囲を見回してみるが、勿論何も見えない。
(……これはすごい、紙袋さんってこういう世界で生活してるんだ)
「付け心地はどうですか?」
「なんだかとっても不思議な気分です」
「……そうですか」
袋を被っている分、少しだけいつもより紙袋さんの声が違って聞こえる。
紙袋さんもいつもそんな風に私の声を聴いているのだろうか。
いや、顔も見えていないはずだけど、紙袋さんはいつも私の表情を読み取っている。
(紙袋さんは、紙袋の名人……)
興奮した時に袋を膨らませたり、ショックな時や物理的にくしゃっとされたりしてもすぐにいつもの紙袋に戻ったり。本当にすごい事なんだなと改めて思っていると、視界が急に開けた。
「わっ……」
目の前には紙袋さんの不服そうな顔。
「面白くないですね」
「す、すいません!紙袋さんの相棒ですもんね……!」
「こんなもの消耗品ですよ」
「消耗品……マスクみたいなものですもんね」
「まぁ、そうですね」
紙袋さんの同意に、なるほどと頷いていると彼の手が私の頬をゆるりと撫でる。
「紙袋さん……?」
彼の指が私に触れている。その事実と、よくよく見ればあと一歩どちらかが踏み出せばぶつかってしまいそうな距離に紙袋さんがいることを意識した途端、顔が熱くなる。
「貴方の顔が見れないのは面白くないので、今後はどんなにねだられても貸しません」
そう言って笑う紙袋さんに心臓を鷲掴みにされるような感覚に陥る。
(ああ……どうしよう、凄い好き)
口をぱくぱくとさせるだけで言葉に出来ないでいると、紙袋さんは勘違いしたらしく「まぁ……貴方がどうしてもというなら一分…三十秒くらいなら今後も貸してもいいですけど」と続けた。
ちょっとだけ紙袋さんの世界と新たな一面を知る事が出来た、そんな楽しい休日。