カチャカチャカチャ。
金属音だけが響く。
「テウタ? どうしたの」
「あ、モズ」
深夜、仕事から帰ってきたモズは私が起きていると思わなかったようで少し驚いた顔をする。
「おかえり、モズ」
「うん、ただいま。それでテウタは何をしているの?」
「んー、知恵の輪。ルカにもらったっていうか、ルカがとけなかった知恵の輪を借りてきたんだけど、全然とけないの」
「ふうん、貸してみて」
私の隣に腰を下ろしたモズに、知恵の輪を手渡す。
するとモズはカチャカチャと知恵の輪を動かしただけのはずなのに、するりと解いてしまう。
「ええ! どうして!? 凄い!!」
「こういうのはコツがあるんだよ」
「そうなんだ……私、二時間以上やってたのに解けなかったよ」
「そんなにやってたの?」
「うん」
私が頷くと、モズは私の頬を優しく撫でる。
アナはいつもこんな風に撫でられているのかなって思ったらちょっと羨ましくなるくらい心地よい。
目を閉じて、モズの手に身を任せていると、ふと手の動きが止まる。
不思議に思い、目を開けるとさっきよりも近い距離にモズの顔があった。
「モズ?」
「ねえ、テウタ。キスしてもいい?」
「えっ、……と」
突然の言葉に心臓が跳ねる。
私もしたい。そう思うのに、モズの瞳に奥に籠った熱に身動きが取れなくなる。
「困った顔してる。嫌だった?」
「ううん、嫌じゃない! 私もモズとしたい!
ただちょっと驚いちゃっただけ」
「そっか」
モズは安心したように微笑むと、私の顎に軽く手を添えて、そっと唇を重ねる。
モズの温度に安心する。離れたはずの唇が、すぐに重なって、分け与える熱が大きくなっていく。
(モズのこと、大好きだなぁ)
今日、少しだけ嫌な事があった。
モズに会いたいって思ったけど、モズは仕事で帰ってなくて。
会いたくて、リビングで膝を抱えて待っていたら、余計寂しくなって。
ルカに借りた知恵の輪の存在を思い出し、黙々とやっていたけれど、それも全然うまくいかなくて。
嫌な事続きだから、もう今日はモズに会えないのかもしれないって思ってたのに。
モズは帰ってきてくれて、知恵の輪も解いちゃって、キスもくれる。
「モズ……ありがとう」
キスの余韻で火照った頬を、モズの胸に押し付けると、モズがそっと私を抱きしめる。
「ねえ、テウタ」
「なに?」
「もう少しだけキスしたいって言ったら、駄目かな」
「……ううん、駄目じゃない」
見つめ合うと、もう一度唇を重ねる。
さっきしたキスよりも、長く深く。
今日起きた嫌な出来事なんて、もう私の心にはひとかけらも残っていなかった。
私はただただ、胸いっぱいにモズを感じた。
そんな幸せな夜のお話。