あいのかたち(大七)

愛情を知らない人間が、誰かを愛する事なんて出来るだろうか。
他の人間には見えないものが見える俺は、周囲の人から気味悪がられた。
その周囲の人というのには自分の親も含まれていて。
そんな俺の手を握ったのは、あいつだけだった。

 

「……ん」

久しぶりに帰ってきて、気づけばうたた寝していたようだ。
旅に出ていて、ろくに帰ってこない俺のために用意された部屋。
七緒を町に出かける約束をしていた事を思い出し、慌てて飛び起きようとしたが、伸ばしていた腕に重みを感じた。

「はあ、どういう状況。これ……」

思わずため息が出る。
なぜか俺の腕を枕にして、七緒が寝ている。
すやすやと気持ちよさそうな顔をして眠る七緒は昔からよく見た七緒だ。
長い髪が七緒の頬にかかっていたので、それをそっと指ではらう。

(お姫様がこんなところでうたた寝なんてしてていいわけないだろう……)

呑気な幼馴染の寝顔を見ながら、俺はもう一度ため息をつく。
今度のため息は呆れてついたものではない。しょうがないかっていう諦めのため息だ。

誰かの寝顔を見ていて、こんな風に胸が暖かくなるなんて思わなかった。
そもそも俺の心は凍り付いて、動くのをやめてしまったと思っていたんだ。
七緒と五月に会うまでは。
知らなかった人の温かさや、愛情を頼んでもいないのに教えてきたのはこいつ。

『大和!』

他の誰が呼んだって動かない心を、こいつはあっさりと動かしてしまう。

ぎゅっと抱きしめたい衝動にかられるが、腕の中で気持ちよさそうに眠っている七緒をいつまでも見ていたいという気持ちがそれを上回る。

「ん……あれ?」

そうしてしばらくすると、七緒が目を覚ます。
眠そうに目を擦った後、すぐ近くにいる俺を見て、七緒が息を飲んだ。

「大和……!? どうして」
「それはこっちの台詞なんだけど。目覚ましたらお前が俺の腕、枕にして寝てるってどういう状況だよ」
「あ……ごめん。大和がなかなか来ないから様子を見に来たんだけど、気持ちよさそうに寝てたからつい」
つい、で俺の腕を枕にして寝てしまうのか。
付き合っている……とは言え、こいつの態度は昔とほとんど変わらない。
多分俺もあんまり変わってないかもしれないけど、それはそう見せてるだけだし。
こいつは俺の事を男として見ていないのかもしれない。
眠っている七緒を見ていた時はそう思ったが、真っ赤に染まった頬を見ていると昔とは違う事が伝わってきた。

(俺が、誰かを好きになるんだったらお前しかいないだろうなって思ってたけど)

こんなにも愛おしいと思うなんて、想像も出来なかった。

「お前だって最近忙しかったんだろ? もういいじゃん。今日はこのまま寝てても」
「でも、大和すぐ旅に出ちゃうし」
「明日急にいなくなったりしないから。だから明日出かければいいだろ?」
「……うん」

安心したように七緒が笑う。
それがなんだか愛おしくて、そっと頭を撫でてみる。

「どうかしたの、大和」
「別に」
「別にって……」

お前が俺に教えた愛なんだから
責任とって、ずっとそばにいてくれ
なんて言えるわけもないけど

ずっと一緒にいたいと思う相手はお前だけだから。

「七緒」
「なに? 大和」

ずっと俺の名前を呼んでて。

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