ただいま(大七)

「大和、本当に髪伸びたね」
久しぶりに会った大和の髪は記憶の中の大和より随分と伸びていた。
そっと触れてみると、海辺をしょっちゅう歩いていたんだろうか、髪が随分痛んでいた。
「ああ、だからさ。七緒がきってよ、髪」
「えっ、私が? 自分の前髪しか切った事ないよ」
「ああ…たまにやたらと短い時あったの、あれ自分で切った時か」
「……」
前髪だけ切るために美容院へ行くのが面倒で自分でちょこちょこ切っていた。
時々切りすぎてしまう事も確かにあったが、あからさまに心配そうな声を出されるとちょっと面白くない。
「でも、いいや。七緒が切ってよ」
「……分かったよ、失敗しないように頑張る」
「うん、がんばれ」
にやりと笑う大和はどことなく嬉しそうに見えた。

現代から持ってきてあった髪切り用のはさみを用意し、大き目の布をエプロン代わりに巻き付ける。あと、床にも切った髪を回収しやすいように布を敷く。
「それじゃ、やるよ」
「ん、よろしく」
大和の髪をほどき、ブラシで丁寧に梳いていく。
最初は何度もひっかかり、その都度大和が変な声をあげたけど、繰り返していくうちに髪はブラシに引っかからなくなった。
「前と同じくらいでいいの?」
「ああ、それくらいで」
「分かった」
チョキチョキとハサミを入れていくと、大和の綺麗な髪が床に散らばっていく。
「大和の髪って綺麗な色だよね」
「そんな事言うの、お前くらいだけどな」
「そうかな」
「そうだよ。……でも、俺はそれが良いって思ってる」
肩くらいまで髪を切りそろえていく。部屋の中にはハサミを動かす音と、時々大和と私の声が響く。
大和とこうして一緒に過ごすのは随分久しぶりなのに、あっという間に空気が馴染んだ。
本当は、久しぶりに会ったら言いたい事も聞きたい事もあったはずなのに。
まるで毎日会っていた頃と変わらない私たちがそこにいた。

 

「できたよ」
「ん。お、結構良い感じじゃん」
鏡で髪を確認すると大和は機嫌のよさそうな声で笑う。
失敗しなかったことにほっと胸を撫でおろし、大和に巻いていた布を回収すると、大和に手を掴まれる。
「大和?」
「なあ、七緒。ちょっとだけ」
そう言って、大和は私を腕のなかに閉じ込めてしまう。
突然の事で驚いたけど、久しぶりの大和のぬくもりに抵抗するわけもなく、大和の胸に頬を摺り寄せた。
「なんだかこうしてると、お前のところに帰ってきたなって思うよ」
「こういう事、まだ全然してないと思うんだけど」
私の記憶によれば、まだ片手にも満たないだろう。
「これから増えていくんだから良いと思わない?」
「…うん、そうだね」
大和が私の元へ帰ってくるたびにこうして抱きしめられるんだろう。
そして互いのぬくもりを感じ合い、安堵するんだろう。
「ねえ、大和」
「ん?」
「大和に会ったら言いたい事も聞きたい事もいっぱいあったんだけど、大和の顔みたら忘れちゃった」
「お前らしい」
大和は私の髪を優しく梳く。
普段は剣を握っている人がこんな風に優しく触れるなんて、誰も想像できないだろうと思うと、特別なキモチになる。
「でもさ、そのうち思い出すだろ。一緒にいれば」
「しばらくは一緒にいてくれるの?」
いつもすぐ旅立ってしまうくせに。
「お前が望むんなら、いくらでもお前の傍にいる」
「……私が望まないこと、分かってるくせに」
やりたい事を見つけた大和を応援したいのだ。
会えない時間は寂しいけれど、それでも…離れていても繋がっていると信じているから。
「いくらでもっていうのは無理だけど、今回はしばらくお前の傍にいる。
だから言いたい事も聞きたい事も思い出せばいいだろ?」
「……うん。ありがとう、大和」
そして私はもう一度大和の胸に頬を押し付ける。

「おかえりなさい、大和」

私の世界で一番大切な人は、嬉しそうに微笑んだ。

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